タイトル | あんどーなつ 江戸和菓子職人物語 |
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原作・漫画 | 西ゆうじ テリー山本 |
出版社 | 小学館 |
数多くあるお菓子のなかでも、
和菓子は味だけでなく見た目からも、
手に取ったものの心を
なごませ幸せにしてくれる。
伝統と技術が重んじられる
その和菓子の世界に
飛び込んでいった少女、奈津。
真摯に仕事に取り組む彼女を
さまざまな人が応援し、
そこから新たな絆が生まれていく。
東京・浅草を舞台に、
若き和菓子職人が織りなす人情物語。
あんどーなつ 江戸和菓子職人物語のあらすじ紹介
安藤奈津はパティシエ志望の少女。
優秀な成績で専門学校を卒業したのだが、
どの洋菓子店からも
内定がもらえずにいた。
その日は銀座の有名店・獅子屋の
面接に臨もうとしていた。
同じ頃その社長室では、
浅草の和菓子店・満月堂のベテラン職人
梅吉と竹蔵が若い職人を
融通してくれるよう懇願していた。
満月堂は江戸時代創業の老舗で、
頑なに伝統技術を守り続ける
その姿勢は多くの常連から
ひいきにされていた。
しかし、跡を継いだ主人の事故死と
職人の絶対数不足により、
存続に黄色信号がともり始めていたのだ。
獅子屋初代が満月堂で修行していた縁を
持ち出すが、取りつく島もなく断られ、
席を立つ。
退室した2人と、
慌てて飛び込んできた奈津が衝突。
奈津が「和菓子」の世界と出会う
きっかけが生まれる。
日比谷公園で休憩していた2人は、
ひょんなことから奈津と再会する。
縁故主義の獅子屋での面接は
通るはずもなかったが、
奈津は気に掛ける様子もなく、
明るくふるまっていた。
そんな奈津を浅草・浅草寺に誘う梅吉。
それぞれが自分の願いを
観音様にお願いするが、
そこで奈津が菓子職人になりたいと
いうことを知る。
もしかすると自分たちの後継者に
なってくれるかもしれない。
梅吉は奈津を満月堂に誘い、
和菓子をご馳走する。
そして和菓子の世界の
深い魅力について語っていくのだが……。
あんどーなつ 江戸和菓子職人物語のネタバレと今後の展開は?
当初はパティシエになるまでのつなぎとして
アルバイトで入った奈津だが、
次第に和菓子の魅力に取りつかれていき、
ついには正式な和菓子職人としての
道を歩み始める。
かつて面接をうけた
洋菓子店の追加内定も、
専門学校時代の同期からの誘いも断り、
梅吉を師匠として精進を重ねる。
また、奈津をひいきにする
常連さんらも現れる。
そのなかで「ご隠居」と呼ばれる老人は、
奈津を食事に誘ったり、
ピンチのときに助け船を出して来たりする。
実は、この老人、
奈津がパティシエを目指すきっかけとなった
父が勤めていた会社「大住物産」の会長、
大住喜八郎だった。
父に喜んでもらえるケーキをつくることを
目標にしてきた奈津だったが、
その父は海外赴任先で
事故死してしまう。
そのことに喜八郎は
責任を感じていたのだ。
また、物語がすすむにつれ、
さらに意外な事実が判明する。
茶道「一ツ橋流」の家元である
一ツ橋あやめは、満月堂を
ご贔屓にしてもらっているが、
奈津のその細かい気づかいに
感心して弟子にとった。
奈津の育ての親である祖母が亡くなり、
母の形見の茶碗を
譲り受けることになった奈津は、
その茶碗をあやめにみせる。
その茶碗こそ、若い頃里子に
出さねばならなかった娘に
託したものだった。
それを持っている奈津は
自分の孫であるということ。
そして娘の父親こそ、喜八郎だった。
2人は決して真実を話すことはないが、
これからも影日向に孫である奈津を
見守っていこうと申し合わせる。
あんどーなつ 江戸和菓子職人物語の読んでみた感想・評価
ひたすら真摯に仕事に取り組む
奈津の姿は感銘を受ける。
「『怒る』と『叱る』は違う」にはじまり、
世の中の至るところに
仕事に関連する知恵が転がっているので、
常にそれに対して
アンテナを張り巡らせるべき、
といったことまで、
仕事の基本について一つずつ、
真正面から取り組んでいる。
「ちょっと怒っただけですぐに
(会社を)辞めてしまう」といった
描写が度々描かれているが、
奈津にはあまり関係ない。
逆に、師匠にあたる梅吉に対して
「もっと真剣に叱ってほしい」と
懇願するなど非常に積極的である。
若い人はぜひ見習ってほしい、
とは言わないが、この高い志は
参考にすべきものであると思う。
梅吉自体も親友である松宮から、
ちゃんと上下関係を示さなければだめだ、
と言われるくらいなので、
ベテラン・中堅も
見習うべき点はあるのだろう。
厳しい言葉をかけるのは
奈津のことを信頼し、
育てていこうという「愛」があるから。
周囲の人が皆やさしく、
愛にあふれていて、
読んでいてとても安心できる。
仕事に関連する物語で、
これだけ感銘と感心、
和があるのは珍しいとも思う。
あんどーなつ 江戸和菓子職人物語はこんな方におすすめな作品!必見
この物語の原作者である西ゆうじ氏は、
まだ連載途上の2013年2月に
亡くなっている。
今作「あんどーなつ」以外に
「華中華」(ビックコミック・小学館)
「蔵の宿 雪と花と」
(漫画TIMES・芳文社)を
連載していたさなかだった。
西氏の描く物語は、前向きな女の子が、
逆境にもめげずに(多少孤高なところを
抱えつつも)自らが置かれた環境を
改善・発展させていくものとなっている。
このスタンスを気に入っている人は、
当然ながらこの「あんどーなつ」は
西ワールドの一つとして
読んでおくべきものだといえる。
また、社会に出て間もない
「新社会人」にもおすすめだといえる。
物語の進行も、奈津がことごとく
面接に落ちたうえで満月堂に就職、
その置かれた環境で
自分の実力をどんどん
発揮していっている。
連載開始当時と現在(2018年)では、
就職戦線の状況は異なっている。
しかし、就職後、社会人として
いかに成長していくのかは、
時代や環境が違っていても、
同じものだと思う。
その「芯」となるものを
この作品からとらえられると思うので、
そのような方も是非
読んでもらいたいと思う作品である。