タイトル | この手をはなさない |
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原作・漫画 | 小花美穂 |
出版社 | 集英社 |
恒の前に突然現れたのは、
ずっと心に思いを宿し続けていた、
初恋の相手だった。
しかしその少女由香子は、
辛い過去と生活によって、
すっかり荒み切っており……。
「謎の転校」の理由の一端や、
借金や闇金の恐ろしさなど、
極めて「大人」な領域にまで、
リアルかつ大胆に踏み込んだ、
強烈かつ新鮮な一作です。
この手をはなさないのあらすじ紹介
彼女とも円満に関係を築く、
今風の若者恒。
しかし彼の心の奥には、
小学校の頃に知り合い、
デートの約束をした少女、
由香子が常にありました。
そして、ある朝恒は、
思い出の人由香子と
思わぬ再会を果たします。
しかし、久しぶりに会った彼女は、
トラックの荷台から食料を盗み、
無気力ぶりを隠しもしない、
自暴自棄な少女に変わっていましたが、
恒は諦めることなく、
彼女の事情に踏み込んでいくのでした。
そこで分かってきたのは、安易に他人が
ましてや学生が手出しすることができない
お金の深刻な問題でしたが、
しかし恒には「手段」がありました。
この手をはなさないのネタバレと今後の展開は?
充実した毎日を過ごす
今時風の若者、恒。
しかし彼女には一つの
苦い思い出がありました。
小学校の頃、恒のクラスに、
光部由香子という少女が
転校してきました。
母親が借金に追われ、
家事は全部自分が
やるハメになっているのに、
成績は優秀で運動神経も良く、
そして何よりもいつも、
由香子はハツラツとしていました。
そんな由香子を見ているうちに、
恒はいつしか胸のときめきを覚え、
やがて、それは恋だと実感します。
しかし、修学旅行に行かず、
動物園でのデートを約束した恒は、
由香子の家から言い争いと物音を聞き、
後で家に行ってみると、由香子は、
書き置きだけを残して、
姿を消してしまっていました。
しかし、由香子らしい女子を
街で見かけたという噂を聞き、
恒の胸は騒ぎます。
そしてある朝、犬の散歩に出た恒は、
トラックの荷台から大量のパンを、
大胆に盗み逃げる少女を発見、
思わず引き止めてみると、
それは何と由香子本人でした。
しかし由香子は、恒たちの顔は
はっきりと覚えていたものの、
ガリガリに痩せている上に、
昔とは比べものにならないほど
無気力で投げやりでしかも、
妙な青年と同棲していました。
しかし、ずっと由香子の影を
追うように生きてきた恒は、
だからといって諦められず、
そのために由香子の真相と
かなりハードな事態に
直面してしまうのでした。
この手をはなさないの読んでみた感想・評価
ボーイミーツガールの定番から、
一切のファンタジーが
入る余地のない「現実」へと、
読者に畳み掛ける構成力と、
厳しい現実の中でも、救いが
用意されているのが素敵でした。
ちょっといいなと思っていた子と
約束したはずが守られず、
離れ離れにという展開は、
非常に定番でロマンをくすぐる、
少女漫画的展開なのですが、
本作の見せた変化には驚きました。
何しろ由香子がボロボロの姿で
再び現れ、その理由はなんと、
親の借金というのですから、
甘い想像は一切崩れていき、
そこから強烈な現実が
展開されていくことになります。
何しろ彼女たちが借りた相手は、
相当にヤバい相手で、
少女向き的なオブラートはありつつも、
「ミナミの帝王」レベルでも
なかなか見られないような
外道取り立てを使ってきます。
その憎たらしさや危険度は、
まさしく青年誌を思わせましたし、
かなりリアルに描かれているため、
どうしてサラ金が問題視され
規制されるに至ったのかが
皮膚感覚で分かった気がしました。
また、由香子が変わったと知っても
必死に手を尽くす恒の頑張りは、
恋愛漫画的な一途さだけでなく、
少年漫画的な熱さを秘めていて、
だからこそ大立ち回りにも
とてもスッキリできましたね。
非常に難しいテーマでしたが、
そこで妙に捻り切らずに
「文脈」にのっとった上で、
作品の醍醐味を見せるのは
本当に見事な仕上がりでした。
この手をはなさないはこんな方におすすめな作品!必見
何やら理由も分からずに転校し、
そして離れ離れになった幼馴染。
学園ものなどでは定番の設定ですが、
その「理由」については少し、
リアルさが足りない部分もありました。
もっとも、前触れなしの謎の転校を
突き詰めて考えていくと、結局は離婚か、
あるいはお金の問題にぶつかるため、
現実でもフィクションでもその辺りは
ボカされている場合が多いのですが、
本作はまったく違います。
サラ金に借りた借金を、また別の
サラ金屋から返すという借金地獄や、
借金を苦にした親の無理心中など、
少女漫画としては極めて重い展開を、
茶化さずに描き切っています。
他の作品とは一味違う、
リアルな展開が読みたい方には
非常にオススメできる作品ですし、
太陽のようだった由香子が、
年月を経てスレてしまうなど、
リアルな救いのなさも強烈です。
本作はいわゆる少女漫画的な
枠組みの中でありながら、
借金や悪い大人の怖さを、
極めてボかすことなく描いており、
サラ金問題が表面化した当時、
本作の意義は大きかったと言えます。
いくらでも都合の良い展開で、
ごまかせそうな状況でも、
一切登場人物に楽をさせない、
その真剣味がありながらも、
ひどくドロドロした感じにはならない、
筆力の高さもまた際立っていますね。