タイトル | どうにもこうにも |
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原作・漫画 | 日下直子 |
出版社 | マックガーデン |
新人賞を取って、何とかデビューを
果たすことができた江藤まお。
しかし鳴かず飛ばずで、しまいには
担当からネームを送らなくてもいいと
戦力外通告を食らった彼女は、
学校で漫画を教えて欲しいという、
専門学校からの電話を受ける……。
プロの厳しさを全身に受けて
翻弄されている主人公を描きつつ、
スパルタ式ではなく、
まだ稚拙な生徒たちの思いを
応援するまおたちの姿勢が爽やかな、
異色の「漫画家先生」物語です。
どうにもこうにものあらすじ紹介
24歳で新人賞大賞を取り、見事に
商業デビューを果たしたものの、
まったく鳴かず飛ばずな江藤まお。
とうとう担当からも、
ネームを送って来なくてもいいと
戦力外通告を受け落ち込む彼女は、
ある専門学校から漫画を教える講師に
なってくれないかとオファーを受けます。
自信を失い乗り気でないまおでしたが、
生徒たちの自由で楽しい漫画を読んで
勇気付けられ講師就任を決意します。
地下で講義を受けている
マンガ・アート科の面々は
とにかく濃く個性的な上に、
あんまり先生の言うことも聞かずと、
困ったところがありましたが、
それぞれに思いを持っていました。
そこでまおは穏やかかつ全力で
彼らを支えていくのですが、
生徒たちが目指す漫画家という道は、
とても険しいものがあり、またまおも、
重い気持ちを抱えたままだったのでした。
どうにもこうにものネタバレと今後の展開は?
24歳にして念願の、
漫画家デビューを達成した江藤まお。
それも新人賞の大賞を、見事に
受賞してのデビューというだけあり、
授賞式で挨拶するような厚遇でしたが、
その後はまったく鳴かず飛ばず、
ヒットを描くどころか、ネームを
ボツにされ続ける日々でした。
そうこうしているうちに二年が経ち、
いよいよ厳しい現実に直面します。
進路指導の一環として母校の中学に
呼ばれた時も、生徒たちには
いいアドバイスはまったくできず、
担当からも、もうネームは
送ってこなくてもいいと、
戦力外通告を食らってしまいました。
一緒に頑張ろうと将来を誓った
同じ年で同期の新人である晴田さんが
見事単行本発売にこぎつける中、
置いて行かれたような自分に、
号泣してしまうまおですが、
そこに見知らぬ電話がかかってきます。
電話の相手は専門学校の氷山という人で、
進路指導をした中学校経由で、
まおの存在を知り、是非とも学校で、
漫画を教えて欲しいというオファーでした。
しかし自信喪失していたまおは、
そんなことができる状態じゃないと
電話中に号泣してしまうのですが、
氷山はあくまで優しく、生徒から何かを
教わる気持ちで互いに成長していこうと
まおを励ましてくれました。
その温かい言葉に、まおは前向きになり、
話を聞くことにしますが、実は氷山は
もの凄い強面だった上に、悪意なく、
今まで仕上げてきた作品を
「楽しんで描いている気がしない」と
評されて打ちのめされてしまいます。
しかし氷山から渡された生徒たちの
漫画が描かれた冊子には、稚拙ながらも
本当に自由で楽しい漫画たちが並んでいて、
まおはようやく学校で、漫画を教えようと
決意を固めるのでした。
どうにもこうにもの読んでみた感想・評価
いわゆるプロがアマを導く、
「教師もの」の一作と言えますが、
まおの実績が少ないこともあってか、
パワーで押していく的な、
スパルタ系物語でなかったことが、
本作の空気には合っていました。
多くの業界系の物語では、
まだ「甘さ」の残る志望者や新人を、
教師が一喝したりするような、
ハードな展開がつきものです。
しかし本作のまおは、一応
プロとは言うものの、デビュー早々
担当から切られるぐらいの実績で、
一つのネームにもこだわれなくなり、
他人をガンガン押していくだけの
「何か」を持っていない状況です。
だからこそ彼女は、ひたすら生徒の
稚拙ながら自由な発想や、真っ直ぐな
熱い心意気を大事にしていき、
声を荒げるのではなく、寄り添って
力になろうとしているので、
全体に雰囲気が和やかなんですね。
もちろん、創作の世界には、色々
厳しい部分も多いですが、
嫌な気を持ってやっていても、
なかなか「楽しい」作品は
仕上げるのは難しいだけに、
読んでいて頷ける感じがありました。
アシスタントなど、プロの仕事場と
人を信じる「学校」の違いと、
学校の良さが全面に出ていて、
これならば高い学費を出しても
無駄とはならないと言えるだけの
充実ぶりがあるのも良かったです。
個性豊かな生徒たちも面白く、
さらには超強面の氷山さんや、
大人しい眼鏡女子だったはずが、
実はゴリゴリの金髪ヤンキーで
レディースの頭だった晴田さんなど
魅力ある人が大勢いるのも嬉しいです。
さらには本作は、プロから見た
技術面精神面での至らなさを
いたずらに否定することなく、
アマチュアの真っ直ぐな心意気や
思いを全肯定する雰囲気があり、
「描きにくく」していません。
どうしてもプロ目線だとアラが目立ち、
またアラを直すのがプロの仕事であり、
ついつい頭から押さえたくなる所で、
本当の意味で生徒たちの自主性を
全力で応援する姿勢は、見ていて
本当に清々しいものがありました。
どうにもこうにもはこんな方におすすめな作品!必見
多くのところで他の人から「先生」と、
呼ばれることが多いのが
いわゆる作家や漫画家ですが、
「技は見て覚える、盗んで覚える」の
昔気質の時代から今は随分変わり、
技術を学校で教える機会も増えました。
しかし、専門学校で技術を教えるのは、
手間がかかり大変なだけでなく、
実作者としては難しい判断が、
必要になっていくことでもあり、
「現役」の作家にとっては、
考えることが多い仕事でもあります。
本作は、何とかデビューしたものの、
まったく芽が出ずに担当から、
見捨てられようとしていたまおを軸に、
「漫画の先生」のお仕事を描いた、
異色の作品ですが、徹底して、
教わる側の目線を大切にしています。
覚悟や技術、才能やモチベが少ない、
多くの受講者に対して、先生が、
ゴリゴリとハッパをかけていく、
熱いがありがちな展開ではなく、
本当に親身な教師像を読みたいなら、
本作はとてもオススメですし、
「厳しさ」を全面に出しつつも、
そこにぶつかるだけでなく、皆で
乗り越える温かみも嬉しいです。
実際のところ、プロの創作の世界は、
会社での仕事と比べるとかなり孤独で
「乾く」部分もあったりするだけに、
温かくアットホームな学校の雰囲気は
正直読んでいても羨ましく、
新感覚の学園物の感じもしました。