タイトル | 劫火の教典 |
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原作・漫画 | 伊勢ともか |
出版社 | 小学館 |
G県で発掘された大規模遺跡。
そこにあった「賽」などの遺物は、
価値がないと学会から評価されたが、
その「力」を狙う者たちもいた。
巨大教団「光光会」は、発掘者の
軽井沢と接触し、改めて「力」を
得ようと企てるが……。
実感のある動機が
物語の背景と説得力を生んでいる、
ハイテンポ・ストーリーです。
劫火の教典のあらすじ紹介
万年准教授の考古学者、軽井沢。
かつては大規模移籍を発掘し、
そのチームの指揮をとるなど
輝かしい実績を積んでいましたが、
今ではバイトをしなければ
家族を支えられない状況でした。
しかし、子供が産まれるという時に
大学からクビを言い渡されるなど、
完全に路頭に迷いかけてしまいますが、
軽井沢が遺跡で発見した「遺物」に、
ただならぬ関心を持つ宗教団体
「光光会」の支援を得られます。
巨額の研究予算と信頼できる場を
新たに与えられ、熱意を燃やす
軽井沢でしたが、
徐々に教団の価値観にはまり込み、
操られたようになっていきます。
しかしその一方で、軽井沢が研究する
遺跡や遺物の「力」を得ようと
暗躍する人々もおり、
軽井沢は望まぬうちに
その混乱に巻き込まれていきます。
劫火の教典のネタバレと今後の展開は?
G県で発見された大規模遺跡。
その発見者であり発掘チームの
指揮を取っていた軽井沢浩二は、
十年後、うだつの上がらない日々を
過ごしていました。
大学内では万年准教授、
研究室にも予算はつかず、
学生たちも無気力状態……。
そんな冴えない日常の中、
講義を終えた軽井沢は、
狐島弥月という女子学生から、
熱心に質問を浴びせられます。
弥月はとにかく情熱的で、
軽井沢が発掘した「賽」に
関心を持っていましたが、
ガソリンスタンドでのバイトまで
同時にこなして生活を支えている
軽井沢は軽くあしらいます。
しかし、二人目の子供ができて、
いっそう家族のために頑張ろうと
思った矢先に、軽井沢は、
大学からクビを宣告されてしまいます。
しかし、そこに現れた弥月は、
「もっとも進んだ宗教」を自称する
光光会の名前を出し、
そこで研究を手助けすると、
軽井沢に申し出てきました。
宗教とは思えないほど先進的な施設や
一方で極めて「独特」な雰囲気を持つ
教主など、光光会は特徴的でしたが、
莫大な研究費と彼らの情熱もあり、
軽井沢は教団の庇護のもと、
研究を再開させることになりました。
劫火の教典の読んでみた感想・評価
学者の探検ものかと思いきや、
争奪戦へと変わっていくなど、
ハイテンポの展開が熱かったですね。
まず、軽井沢先生の立場が、
色々とリアルで胸に来ましたね。
大学には様々な学科がありますが、
どうしても発掘費用などがかかる上、
商業的に発展もしづらい分野である、
考古学や歴史学には、予算がつかず、
人も集まりにくい傾向があるんですね。
そのため講義にも人が集まらず、
学内での出世も難しく、と、
とにかく厳しい日常があったりします。
だからこそ光光会の申し出を受けた
軽井沢先生の選択も、簡単に
軽はずみとは言えないんですね。
一方、光光会の側にしても、
表向きに描かれている部分以外の
「偏り」が見えるのも良いですね。
「魔法」や「魔術」といった技は
昔から言い伝えられてきましたが、
ほとんどのそうした技術よりも、
現代科学の方がずっと強力で、
例えば火炎魔法があっても、
消防車で対処ができてしまいます。
だからほとんどの国や機関は
魔術よりも科学を研究して
進展させていくものですが、
独特の教義で動く光光会には
そうした結論はなく、
「大いなる力」を求めるんですね。
本作は、そうした人や組織独自の
立ち位置を描くのがとても巧みで、
だからこそ物語に熱があります。
正義感や公徳心が歪んでいく過程も
真っ直ぐに描かれていますので、
考えさせられる部分も多かったですね。
劫火の教典はこんな方におすすめな作品!必見
神秘の結晶、オーパーツ、遺物……、
人によって呼び方は様々ですが、
ごく稀に普通では有り得ないものが、
地中から発掘されることはあります。
もちろん最近の科学の進歩で、鑑定技術は
向上の一途を辿り、そうした品々の素性も、
ほとんどが分かるようになってきました。
しかしごくごく一部のものに関しては、
未だに科学では説明がつかず、
物凄いいわれを残したりしています。
本作はそんな「遺物」を巡る、
争奪戦や剥き出しの欲望が
じっくりと描かれています。
ただでさえかなり不穏な教団から、
さらに強烈な意思を持って
「遺物」を奪っていくという、
序盤からの流れには、
科学を最重要視しない人々ならではの
説得力があります。
ついつい大金や巨大な利権が
近くにあったりすると、根拠なく
全力を注いでしまいがちですが、
争奪戦に明確な「背景」が
滲んでいる本作には、
説得力を求める読者にも最適です。
また、基本的に「いい人」のまま
歪んでしまっている光光会の面々や、
怪しげな申し出でも断れない、
研究者としての悲しいサガといった、
人間ならではの「業」の部分を
はっきり描いているのも好印象です。
ビシバシの進んでいくスピード感や
ハイテンポを支える画力など、
ベースの部分にも見所は多いですね。