タイトル | 勝手にしやがれ |
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原作・漫画 | 末松正博 |
出版社 | スコラ |
個人的で破滅的、酒にハマり込み、
妻と別居することになっても
気ままな探偵業を続ける男、
加納の生き様がここに。
ほとんど典型的なまでの「探偵」像を
最大限に活かすために構成から
モノローグまで全てに工夫が
凝らされた、オールド・ファン必見の
一作です。
勝手にしやがれのあらすじ紹介
とにかくアルコールが大好きで自由な
私立探偵、加納。
その上仕事命という性格でもないためか、
滅多に仕事は来ず、たまに来ても
強烈な面倒事だったりすることも
しばしば。
しかし加納は自分の生き方を
まったく変えようとはせず、奥方と
別居するハメに陥ってもなお、自由で
危険な探偵業を続けます。
しかしそんな加納も、時には各界を
揺るがすような大事件に
巻き込まれることもあります。
加納が発見したある楽譜は、加納に
言わせて見れば、凡庸なフレーズが
書かれた「おたまじゃくし」に
過ぎませんでしたが、それこそが実は、
大事件を表に出さないようにするための
「保険」であり、事が起こっている
証拠でもあったのです。
勝手にしやがれのネタバレと今後の展開は?
「楽譜」騒動が一段落し、面倒事から
解放された加納。
しかし彼の車の前に一人の女性が
飛び出てきて、自己紹介を始めます。
彼女の名前は門馬。
加納と同じ私立探偵ですが、狙っている
ターゲットも同じでした。
誘拐犯を追っているのですが、
加納が目立ち過ぎて相手が
感づいてしまうので、依頼者が
門馬に選手交代したというわけです。
加えて自分の愛車までレッカー移動を
食らってしまった門馬ですが、いきなり
駆け出したかと思うと、カー・ショップに
入り込み、大型高級車のキーを回し、
セールスマンを巧みに
その気にさせます。
そしてすんなりと発進しますが、
目的はドライブではなく「攻撃」でした。
加納は今日までは俺が担当だと
いうことで、即座に決着をつけて
やろうとしたのです。
もちろんショップ店員も門馬も
ビックリですが、加納は何も
ためらうことなく車を犯人がたてこもる
建物のシャッターに突撃させ、強引に
建物内に侵入、混乱する標的を
いきなり殴り倒し、すぐさま事件を
解決させてしまうのでした。
勝手にしやがれの読んでみた感想・評価
実に心に響きましたね。
私は「探偵モノ」の作品がかなり
好きなのですが、どうしても
日本における大人気探偵
シリーズとなると、犯人をうまく推理して
捕まえなければならない関係上、
真面目でなくてはなりませんし、
遊べる余裕も少なくなってくるんですよね。
もちろん、それはそれで大変
良いのですが、私的には、どこまでも
個人プレーを貫き、組織からも
社会からも自由で、酒や女性に弱く、
的な、大昔の映画やドラマで活躍した
アウトローで肩の凝らない探偵の活躍が
読みたかったんですね。
その点、本作の主人公、加納は
まさしく自由で奔放。
しかも自分なりの美意識を強烈に
持っていて、音楽に対する
知識も豊富。
まさに洒落者のカガミといった
感じで、その豪快な男ぶりが
何とも熱いですね。
また、散々悪態をつき、
任務解決のためには暴力をも
いとわない加納ですが、女性に
対しては何となく壁があるというか、
ちょっとしたところで丁重さを
感じるのも、私としては
高く評価したい部分でした。
勝手にしやがれはこんな方におすすめな作品!必見
時代劇や青春ドラマ、ヤンキー系作品……。
メジャーと言われるジャンルには
「定番」がつきものです。
今ではベタだと敬遠されることが
多いですが、やはり安心感があり、
読んでいても面白いものです。
しかし、「探偵」となると、最近は特に
「定番」の枠におさまってくれる
作品が少なくなったように感じます。
ドラマの中の役どころとなると、
あらゆる「前提」がついた探偵が
活躍しますし、GPSにスマホの
時代では、事件を解決するのに
探偵が頑張るというのもリアルでは
なさ過ぎてしまうのかも知れません。
その点、本作「勝手にしやがれ」は、
心憎いほど「探偵」の定番を
押さえています。
それも、十代の少年たちが事件解決に
奔走するようなタイプの探偵ではなく、
アメリカの古典的な映画やドラマに
出てきたような、ハードボイルドで、
それでいて少し滑稽な「探偵」が
主人公です。
何しろ加納探偵事務所を経営する、
加納 天馬は全身の血を総入れ替え
するほどの輸血を不摂生から
繰り返すような破天荒で、完全な
アルコール依存的状態にあります。
その奔放さから美しい奥方とも
別居するハメになり、しかし
更生はできずにろくでもない
依頼をこなしたりしているという、
完全に「正しい」ハードボイルドを
突き進んでいます。
しかし仕事に激烈なこだわりが
あるわけではなく、社会的正義が
後ろについているわけでもない
加納の姿は滑稽でさえありますが、
同時にとても自由です。
何事もロジックと組織に至る
現在にあって、本来個人プレーの
人でありながら「真面目」に
おさまってしまっている創作上の
探偵たちの中にあって、加納の
「勝手」ぶりは、まさしく異彩を
放つものであり、同時に読者を
ホッとさせるものではないでしょうか。