タイトル | 夢やでござい |
---|---|
原作・漫画 | ごとう和~kazu~ |
出版社 | 秋田書店 |
起業してもうまくいかず、出資した
イベントでも経理担当に逃げられ、
ただ働きのようにやってきたイベントが
終わったところで妻に離婚届を
突きつけられてしまった中年、門馬。
彼が選んだのは意外なことに葬儀屋で……。
欠落したものを持つ人たちが葬儀屋という
仕事を通じて色々な経験を積んでいく、
心温まる物語です。
夢やでございのあらすじ紹介
会社を友達と一緒に起業したものの
うまくいかず潰してしまい、出資した
イベントでは経理担当に逃げられ、
と冴えたところがない中年、門馬。
しかも、ただ働きのような状況の中で
奮闘したものの、その後に
待っていたのは妻からの離婚届でした。
何もかもなくしてしまった門馬は、
行きつけのバーで知り合った若い女性を
家に泊めますが、そこでも何もできません。
しかし、いつまでもダメ、というわけには
いかず新しい就職先を探し始めますが、
なかなか見つかりません。
しかし、飛んできたチラシに引かれて
「夢や葬儀店」に入ると、そこには
一夜を共にした若い女性がいたのでした。
夢やでございのネタバレと今後の展開は?
いつになくビシリとスタイルを
決めてみせる門馬。
高校の同窓会に出席する予定が
あったのです。
恩師も同級生たちも相変わらず
元気な中、銀行に勤める戸田は
一際輝いていました。
起こした会社を潰してしまったことや
奥さんに逃げられてしまった門馬に、
「泣き虫もんちゃんらしい」と軽口を
叩きつつも、子供の頃から
困っていると助けてくれ、
そしてバブルにも動じずに
成功している戸田の姿は
頼もしいものでした。
しかし後日、小学生の死者が出たからと
病院に急行した門馬が見たのは、
病室で立ち尽くす戸田の姿でした。
亡くなったのは戸田の息子だったのです。
この葬式はできない、
と感情を爆発させる門馬。
幸いに、と言うべきか予約は
キャンセルとなりましたが、門馬は肩を
落とす戸田がいたたまれず
お通夜にもお葬式にも迎えません。
しかし後日、偶然街で会った戸田に
呼び止められお茶をする中で、
思いのたけをぶつけ合い、そして
門馬は、自分なりの死生観を
戸田への手紙にしたためるのでした。
夢やでございの読んでみた感想・評価
まったく畑違いの仕事に取り組むとなると、
どうしてもたくさんの「壁」に
ぶつからなければなりませんが、
本作はそうした「仕事系」の要素よりも、
人の死や悲しみに向き合うといった部分が
多くを占めていたのは良かったですね。
起業の夢破れ、イベントに出資したら
お金を持ち逃げされ、それでも
仕事をやり遂げたら奥方に離婚され、と、
仕事面ではまったく冴えなかった主人公、
門馬と、漫画家の夢を抱いて
アシスタントに入ったら漫画家の先生と
恋仲になってしまい、そのために
先方の家庭がさらに乱れ、両親からは
勘当されてしまったみのりという、
「勝ち組」とは言い難いコンビが
主軸で、しかも入った葬儀屋の規模も
小さいという中で、二人が様々な
死と接して大事なものを見つけて
いくという展開の温かさは、バリバリ成功を
収めていく物語では
味わえないものだったと思います。
ひどい事件や恨みつらみなど、
いかにも漫画的にはありがちかつ
王道な流れに持っていかなかったのも
「夢や」の物語としてはふさわしく、
個人的には嬉しいところでしたし、
一つ一つのエピソードも過不足なく
巧みにまとめられていると思いました。
派手さはありませんが、強烈な映画を
観終わった後に、じっくりと一人で
読んでいきたいタイプの作品です。
夢やでございはこんな方におすすめな作品!必見
人の死が悲しいことは
避けがたいものですが、創作の世界の
話となるとどうしてもそこに凄惨さや
ショッキングなものが加わって
しまいがちなものです。
「お話」である以上仕方がない面は
あるのかも知れませんが、やはり
あまりに強烈過ぎると、死者に、
そして死に寄り添うどころでは
なくなってしまいます。
その点本作は葬儀屋を舞台に
していながらも、殺人などいわゆる
事件性のある死は登場させておらず、
遺族が純粋に故人や死と
向き合える形になっています。
そのことはまた、物語を読む私たち
読者もまた、「犯人への憤り」や
「恨み」といった要素抜きで
作品を読み進められることを
意味してもいます。
人が良いのが災いしてタダ働きを
強いられて奥さんと離婚する羽目になった
主人公の門馬も、アシスタントに入った先の
漫画家の先生と情を交わしあったために
親に勘当され、祖父のところに
転がり込むことになったみのりも、そして
駆け落ちを完遂できなかった社長も、
本作の登場人物はどこか
「喪失」しているように見えますが、
各人の大事な人の死と向き合うこの仕事を
することによって、自分にとって必要な
何かと向き合っているように見えます。
そうした優しさと強さが本作の特徴であり、
悲しみや辛さだけを強調する形でないのは、
単純な悲劇がつらい方にとっても
良いかも知れませんね。