タイトル | 太陽が見ている(かもしれないから) |
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原作・漫画 | いくえみ綾 |
出版社 | 集英社 |
複雑な家庭環境を持ち、
生き辛さを感じる岬と、
親のえげつない仕事のために
いじめを受けていた廣瀬 楡。
二人は隣の席になったことで
意気投合し同じ高校に入り、
「一つ屋根の下」に暮らすような
親友になるのだが……。
繊細な若者の感情と、
社会的にリアルな部分が
巧みに折り重なった、
内面的な深さがある
恋愛青春物語です。
太陽が見ている(かもしれないから)のあらすじ紹介
普通に日常生活を送りながらも、
複雑な家庭環境を持ち、
どこか疲れている深山 岬は、
中学最後の夏休みの後、
席が隣同士になった少年、楡と、
すぐに仲良くなっていきます。
楡の家はえげつない金貸しであり、
そのために多くの生徒から
いじめの標的にもなっていましたが、
岬はまったく気にすることはなく、
楡もまた、高校に入ってからは、
明るい性格になっていきました。
そんな中楡は、「事件」のために
離れ離れになった友達、
井田 日帆と再会します。
日帆は控えめで思いやりがある
とても良い人で岬とも
すぐに親友になりますが、
しかし、岬としては
楡を取られたくない気持ちも
隠しづらくなっていました。
太陽が見ている(かもしれないから)のネタバレと今後の展開は?
中学三年生の深山 岬は、
友達とにこやかに語らい、
普通に生活をしながらも、
どうしようもないほどの
居づらさ生きづらさを
感じていました。
自分に告白してきたのに、
微妙な返事に逆に
キれてしまった飯島君や、
同級生の面々に強いズレを
感じてしまっており、
修学旅行も十分には楽しめません。
そんな岬ですが、休み明け、
隣の席に座った広瀬 楡には、
ごく自然に話し続け、すぐに
距離を詰めることができました。
楡の額にある傷と、
楡の父親の仕事についての
話も聞きますが、
岬の心は離れることはなく、
二人は私服の峰高に進学し、
親友として時を過ごしていきます。
楡は金貸しで大金持ちの父親から
入学祝いにと「家」をねだり、
岬はそこに居着くという形で、
ようやく安堵できる感覚を
味わっていました。
そこに、はしかで休んでいたという
美しい女子生徒が登校してきて、
楡に話しかけてきます。
その少女井田 日帆は、
かつての楡の親友で、
しかし親が借金が原因で暴走したため、
楡の額に傷をつけてしまい、
離れ離れになっていたという
過去があったのでした。
もちろん日帆には何の関係もなく、
楡も気持ち良く水に流しますが、
楡を取り巻く「影響」は
まだ消えることはなかったのでした。
太陽が見ている(かもしれないから)の読んでみた感想・評価
恋愛と友情の間で揺れるような、
しかし微妙でもなく濃密で、
確かな絆が感じられ、
読んでいる側としては
非常に頼もしさを感じました。
まず、主人公の岬さんがいいですね。
冒頭は家庭の環境などからか、
かなり生き辛い感じを味わっていましたが、
元々は明るく楽しい性格で、しかも
人の弱さや辛さに寄り添える強さがあり、
自分が抱えている難しさを
悪い形で出さないタイプの女性であり、
自発的な活力があるので、
男女どちらにも好かれるタイプでしょう。
そして、その思いを向ける相手の楡も、
クールで美形というだけではなく、
自分が背負っている重いものと、
自力で戦い抜こうという意思があり、
かと言って関係ないと周りを
突き放し切るでもない優しさもある、
彼氏と言うよりは人間として
信頼できるタイプの少年であり、
内面をよく知るなら決して
嫌われることがないタイプの
強さを持っています。
こうした男女が織り成す
友情と恋愛が絡んだ物語だけに、
話として面白いのはもちろん、
社会や色々なことを
深く考えられるような
作品でもありました。
親の仕事が無関係の子にも
容赦なく影響してしまうような、
現実社会のリアルな部分も、
決してなあなあにしていないので、
重く辛い部分もありましたが、
その分説得力を感じましたね。
太陽が見ている(かもしれないから)はこんな方におすすめな作品!必見
友達以上恋人未満の関係は、
色々なジャンルの作品で良く見られますが、
恋に発展するかもなドキドキがある一方、
決定的な踏み込みがないだけに、
多くの恋人よりも心の距離が遠かったり、
友達以上と言いつつ、親友のような
濃密な時間や絆を過ごしていなかったり、
悪い意味の中途半端さが生まれがちです。
しかし本作では、父親の仕事が原因で、
いじめを受け心に傷を持っている楡と、
同じく複雑な家庭で育ちながら
前を向いて明るく生きようとする岬や、
親のため楡と離れ離れになった日帆と、
皆濃密な背景を持っていて、
不要な「距離」は生じておらず、
むしろ同性の親友同士のような
良い意味での近さがあるので、
ラブコメ作品にありがちな「遠慮」が、
少し苦手という方にも実に面白く
フィットする作品でだと思います。
「大人」たちの身勝手とも思える
色々な生き方やハードな仕事が
子供たちに与える影響という、
かなり重く深いテーマに沿って
進められているにも関わらず、
笑顔を忘れない岬の態度で、
不要に作品全体が
重くはなっていないところも、
青春物語としては良いですね。
そして、えげつない貸金業という、
ハードな家業が背景にあることで、
本来平等な同級生の間にも妙な
「差」が生じてしまい、
そのことで楡が「標的」になる
冒頭から描かれる逆転現象は、
意外なようであり得る話であり、
そのために非常にリアルな空気を
滲ませてもいましたね。