タイトル | 正平記 |
---|---|
原作・漫画 | 柳沢きみお |
出版社 | 秋田書店 |
これは「大学」に入るのが
今よりもっと厳しかった、
「昭和」の時代の物語。
目指すは日本の最高学府「東京大学」。
現役時代の雪辱を晴らすべく上京し
予備校通いの毎日を送るのは、前作
「月とスッポン」でもガリ勉キャラ
として知られた藤波正平。
「特命係長只野仁」シリーズの
柳沢きみおが描く、大学受験生の
苦闘と悲哀と希望の物語。
正平記のあらすじ紹介
現役での東大合格を逃した藤波正平は、
浪人して再起を図るべく、東京・S大
予備校東大主目標クラスの門をたたく。
親戚筋にあたる品川の立花家を
下宿先とした正平は、1年後の
東大合格に向けて戦いを開始する。
しかし、合格への道のりは正平の
想像していたものよりも遥かに厳しく、
そして辛いものだった。
長く、孤独な勉強だけでなく、様々な
出来事が正平に降りかかってくる。
立花家の祖父・源次による朝の特訓
(ラジオ体操~ランニング~
冷水マッサージ)、
異性の誘惑、大暴れする
個性的すぎるライバルたち…。
これらを乗り越え、正平は無事に
東大の門をくぐることができるのだろうか。
正平記のネタバレと今後の展開は?
源次による朝の特訓ですっかり
ペースを乱された正平だが、
しばらくは言われるままに立花家の
しきたりに従っていく。
しかし、友人でありライバルでもある
金子のマンションでの泊りがけ勉強会が
行われたことをきっかけに、立花夫妻の
計らいで、近所に借りたアパートに
勉強部屋を移すことになる。
朝の特訓もなくなり、勉強のペースも
上がる、と思いきや、今度はそこで
出会った個性豊かな住人たちや
立花家長女・みどりの
友人であるニンジンらが絡んでくる。
勉強中心の生活からはどんどん
程遠くなり、住人の一人である
ジャズシンガー・桑沢直子と
正平の関係に嫉妬したニンジンが
部屋に乱入。
源次が無理やりアパートから
連れ戻すはめになる。
拘禁に近い状態とされ、予備校からの
帰宅門限も決められたが、反面で
朝の特訓は免除となる。
東大突破のための第一関門、
共通一次試験が近づくにつれ、
ライバルたちは一人、
また一人と脱落。
模試の合格判定もなかなか
上がらないまま、風邪で体調を
こじらすが、何とか無事に試験を
迎えられる。
足切りラインを突破し臨んだ
二次試験も無事終了。
そして、合格発表の日。
立花家の皆がそわそわして
待ち受ける中、正平からかかってきた
電話は一言
「合格しました」
正平記の読んでみた感想・評価
この作品自体は、柳沢きみお氏による
ラブコメ「月とスッポン」
(1976~82、秋田書店・週刊
少年チャンピオン連載)の
続編・スピンオフとなっている。
主人公・藤波正平とその友人・金子秀雄、
正平のペンフレンド・星野道代は、
もともと「月と…」のキャラクターだった。
正平自体、前作よりガリ勉キャラとして
定着していたし、金子もその
ライバルとして描かれていた。
前作主人公である土田新一(ドジ新)と
花岡世界(世界ちゃん)も、
名前だけだが登場する。
その前提が一応用意されてはいるが、
それがわからなくても、一人の
大学受験生奮闘記として十分に
楽しむことができる。
この作品をはじめて読んだ当時、
「月とスッポン」は名前は
知っていたが、内容や
キャラクターまでは知らなかったが、
それでも楽しむことが
できたことを覚えている。
この物語当時(昭和57年)は、
大学受験における合格率は今よりも
はるかに厳しく、現役合格するほうが
稀、と言われたこともあった。
さらに、受験に対する多種多様な
サポート体制も現在ほど充実しておらず、
まさに手探り状態、あとは努力と根性で
なんとかするしかなかった。
それらを身をもって体感してきたので、
個人的には正平に対して
非常に親近感を感じた。
現在の視点からこの物語を
みるときについては、やはり、
過ぎ去った昭和へのノスタルジー的な
見方もできるかもしれない。
今の学生からみれば、場合によっては
「ギャグ」に近い雰囲気を
感じるかもしれない。
それを含めて「昭和の受験生」が
どういうものだったか、を表している、
異色の物語でもあると思う。
正平記はこんな方におすすめな作品!必見
柳沢きみお氏の現在の作品群
「特命係長只野仁」や「大市民」と
いったものしか知らないファンの方には、
まず「月とスッポン」と合わせて
読んでもらうと面白いと思う。
現在とのタッチの違いや物語の構成の
仕方の差異について、発見や
驚きがあるに違いない。
それらがとても新鮮で、これから出す
同氏の作品についてさらに
興味がわいてくると思う。
また、この作品が出た80~90年代は
大学受験が厳しかったこともあり、
他にも予備校を舞台にした
コミック作品がいくつか発表されている。
コンタロウ氏「学問のススメ」(1987)
原秀則氏「冬物語」(1989)などは
有名なところであり、オリジナル
劇場版として公開された
「気まぐれオレンジロード・
あの日にかえりたい」(1988)も
予備校がメインの舞台となっている。
昭和という時代を知る一つとして、これらの
作品と一緒に見比べてみるのも
非常に楽しい。
特に、当時受験生だったシニア・ミドル
世代には、kindle版として
出版されているのであの時を思い出して
懐かしむのもまた一興ではないだろうか。