タイトル | 特攻の島 |
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原作・漫画 | 佐藤秀峰 |
出版社 | 芳文社 |
太平洋戦争末期、飛行機だけでなく、
「魚雷」を使った特攻作戦があった。
爆薬の詰まった魚雷の中に入り、
確実に死が待つという作戦の中、
男たちは苦しみつつ必死に戦う。
「回天」作戦を通じて、
戦争の生々しさと恐ろしさを
如実に描き出した傑作です。
特攻の島のあらすじ紹介
太平洋戦争末期、正攻法では
既に劣勢を覆せなくなっていた日本。
その中にあって「魚雷特攻」が
提案されていました。
魚雷の一部を改造し、その中に
人を乗せ、操縦させるという
「必死」の特攻作戦に、
多くの若者たちが向かっていきました。
絵を描くのが好きな予科練生渡辺も、
「回天」の訓練生に志願し、
悩み苦しみながらも、
まさしく必死の訓練に明け暮れ、
濃密な日々を過ごしていくのでした。
回天に込められた思いを受けた
若者たちは、それぞれの形で
命と向き合っていきます。
特攻の島のネタバレと今後の展開は?
昭和十九年九月、既に戦況は劣勢、
サイパン島も陥落し、日本本土が
爆撃の危険域に入ったある日、
福岡予科練航空隊に所属する渡辺は、
「新兵器」の存在を知らされます。
どうやら乗ったら最後、生還は
期待できない類の兵器との話ですが、
結局渡辺たちは皆志願し、
より抜かれた上で責任者の
板倉少佐から内容を聞かされます。
その兵器とは魚雷に操縦桿をつけただけの
人間魚雷「回天」だったのです。
元々から死は覚悟していたとは言え、
自分たちが魚雷の「部品」になる事実に、
渡辺たちは打ちひしがれてしまいます。
一方、自分の命を完全に計算外とし
「回天」の立案から操縦までを行う
仁科中尉という理解不能な存在に、
渡辺は思わず突っかかってしまいます。
対する仁科は怒号や体罰ではなく、
自分の艦に同乗させることで、
「回天」の何たるかを理解させます。
もの凄い轟音に囲まれる中、
潜望鏡すら使えず、海図や計器だけで
操舵しなければならない劣悪さ、
それは渡辺にとって驚きの現実でした。
命を賭けるだけの意味を、と、
渡辺は搾り出すように言いますが、
状況が変わるはずもありません。
そんな渡辺に仁科は、
自分と同じようなものを感じ、
盟友である黒木が死んだ艦や、
そこに書かれた遺言などを見せ、
さらには心底から語り合います。
仁科と黒木の思いに触れ、
訓練に必死に取り組み始めた渡辺。
それによって技量も上げましたが、
第一次の出撃隊の隊員には、
渡辺の名前はありませんでした。
特攻の島の読んでみた感想・評価
色々な戦争ものや歴史ものの
漫画作品を読んできましたが、
やはり「特攻」は辛いですね。
特に本作はその空気感の殺伐さが
容赦なく突き刺さってきて、
流し読みができないような
迫力があっただけに
巻が進むにつれ心にきました。
その意味で本作は決して
「楽しい」ものではありませんが、
読む意義は十二分にあります。
反戦的な直接的な描写、
メッセージのようなものは
皆無に近いと思いましたが、
それだけに戦争の無残さや
無意味さ、厳しさが
ひしひしと伝わってきましたね。
もし仮に戦争が終わらず、
延々と続いていたとしたら、
この悲惨極まる作戦が
果てなく続いていただろう事実には
恐怖を禁じ得ませんでした。
国民を守るはずの国家が、
将来ある若者に「必死」を求める現実。
本作には、その逆転の恐ろしさが
ぎゅっと濃縮されていましたね。
ひどい戦況にひどい展望、
そして恐らくは最悪に近い
「特攻作戦」。
どうしてこの状況に至ったのか、
そして何故皆従ったのか。
疑問を読み解く一つの鍵が
本作にあるように思えました。
特攻の島はこんな方におすすめな作品!必見
太平洋戦争を扱った作品は多いですが、
中でも「特攻」をメインに据えた作品は、
様々な面で難しい問題があります。
まず、メインの人間の「死」が確定的で、
加えて作戦が優れていないことも
現代の感覚からは明らかであり、
つまりは決して「勝利」できない中で、
いかに読者視聴者の心に訴えかける
作品作りができるかが問われるからです。
しかも本作は「特攻」の代表である
航空機による特攻ではなく、
人間魚雷「回天」がテーマなため
曲がりなりにも空への爽快感がある
航空機とは違い、窒息しそうな
魚雷の中の苦闘を描くしかありません。
しかし、本作はこの厳しい条件を
見事にクリアし、搭乗員たちの心情を
強烈に描き出すことに成功しています。
これまで佐藤氏の代表作とされてきた
「海猿」、そして
「ブラックジャックによろしく」は、
登場人物が苦労を尽くす分、
成功という見返りがありましたが、
それがまるで期待できない本作でも、
まったくテンションを落とさず
チリつくような緊張感と悲惨さを
見事形にしています。
実際的に戦争から時間が経つと、
どうしても皮膚感覚というか
真に迫る描写が難しくなる中、
恐ろしいほどのリアルさで
厳しくも無残な戦争を描いた本作は、
まさに読み継がれるべきものです。