タイトル | 瞳いっぱいの涙 |
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原作・漫画 | 真柴ひろみ |
出版社 | 講談社 |
最愛の自分の姉と、
事故で姉に大怪我をさせた担任。
この二人の婚約が決まってから、
高校三年生の美帆は無理やり明るく、
自分の態度を取り繕おうとするが……。
大事故の当事者同士であり、
婚約者である姉と担任。
しかし担任と自分が、かつて
将来を誓うほど愛し合っていたという、
非常に複雑でハードな関係を、
リアリティ溢れる心理描写によって
じっくりと楽しむことができる、
異色かつ傑作の切ない恋物語です。
瞳いっぱいの涙のあらすじ紹介
高校三年生の美帆は、進路を決断せず、
ただちょっと悪い友達とワイワイ過ごす、
不真面目にも見える青春を送っていました。
しかし彼女には最愛の姉千帆が、
美帆の担任の車によって大怪我させられた
重い過去が存在しており、
さらに思いを寄せていた担任諏訪が、
千帆と婚約したことで、
自らの思いも台無しにされてしまいます。
とは言え諏訪と自分の、かつて結婚を
約束し合った秘密の関係を、
周囲に言えるわけもなく、
自分の様々な思いをひた隠し、
明るく生きていこうとしますが、
その態度にはやはり無理があるのでした。
瞳いっぱいの涙のネタバレと今後の展開は?
高校三年生の宇都見美帆。
元々元気の良い女の子でしたが、
最近は校内のちょっと悪い子たちと
頻繁につるんでいて、遅刻をしたり、
髪にパーマを当てたりと、
担任の諏訪冬二を困らせていました。
ただ「ちょいワル」な美帆の友達も、
高校三年ということもあって、
勉強もしなければということで、
美帆の家に皆で集まって、
ワイワイ楽しく勉強しようとします。
グループの男子たちのお目当ては、
美帆の姉である千帆です。
美帆と同じ学校に通っていた千帆は、
容姿が素晴らしく美しく、
モデルの活動をしていたほどで、
完全に学校のアイドルだったのです。
しかし千帆は事故のために車椅子で、
その原因を作ったのは、
美帆の担任である諏訪先生だったのです。
そのため普段はお兄さんとして
甘えてみせたりしていても、
美帆の心にはわだかまりがあり、
特に諏訪先生の教科の成績が
急降下するなど、その変化は
顕著なものがありました。
ただその一方で、かねてから美帆は
諏訪先生と思いを通わせており、
そもそも千帆の事故の時も、
結婚の挨拶をするべく美帆の実家に
向かっている最中だったこともあり、
憎いだけの思いでは片付けられません。
そうした複雑な本心を隠しつつ、
毎日を明るく楽しく、テキトーに
過ごそうとする美帆でしたが、
友達に自分の笑顔を、
泣いているように笑ってると言われたり、
無理を隠せなくなりつつあったのでした。
瞳いっぱいの涙の読んでみた感想・評価
事故の当事者が単に
重い事実に向き合うだけでなく、
さらに人生を共にするという、
深い決断をする中での
周囲の心理の葛藤も描いた、
内面的な傑作と言えます。
本作のポイントは第一に
その設定の独自性にあります。
人身事故となれば、常に
相手がいることですから、
形はどうあれ当事者は、互いに、
向き合うことにもなっていきますが、
本作では諏訪先生と千帆という
当事者同士が婚約するんですね。
となると当然妹の美帆にとっては
最愛の姉に大怪我を負わせた相手が
義理の兄になってくるわけで、
本心を見せなくなり、ちょっと
悪い感じの友達と付き合うのも
当然のように思いました。
しかし話はそれで終わらず、
実は美帆と諏訪先生は、
互いに思いを寄せ合っていて、
結婚の約束までしていたのですから、
読んでいる私としては、
目を丸くするほどビックリしました。
しかし、諏訪先生は紳士的で誠実な
教師としても優れた人ですから、
事故とは言え元教え子を痛めたことを、
断じてそのままにはしておけず、
美帆との関係を解消するだけでなく、
千帆と婚約してしまうんですね。
本来、ほとんどの場合は、
事故の責任を取り教師を辞めて、
もちろん姉妹からも離れるという、
経緯を辿るのが一般的なはずですが、
諏訪先生の場合は責任感が強すぎて
皆が苦しんでいる感じです。
しかしその感情があるにせよ、
決断が間違っているとはとても言えず、
だからこそ美帆も皆から離れられず、
読んでいても複雑で動きづらい状況と
心の動きがヒシヒシと伝わってきて、
相当な圧力を感じてしまいました。
しかし重いだけではなく、皆が優しく、
そして温かいことから救いがあって、
新しくできた美帆の仲間も含めて、
人を気遣えるタイプが多かったので、
ドロドロした気分にはならず
読み進めていくことができました。
瞳いっぱいの涙はこんな方におすすめな作品!必見
縁は異なものとは良く言いますが、
その「縁」が誰かの不幸になる、
どうしても納得などできない、
そういう状況は少なくありませんし、
創作上直面する作品も多いですね。
しかしその「認められざる出来事」が、
自分の大事な二人の人を結びつけ、
思いを伝えることも難しいとなれば、
自暴自棄になりたくなるのも
理解できるというものです。
その意味で本作は、元教え子を
大怪我させた教師が、
その相手と結婚するという、
かなり大胆な本筋の中で、
極めてリアルな心理描写が
展開されていると言えます。
「リアリティ」の中に
妙に埋没してしまうことなく、
かと言ってフィクションだからと、
内面的な現実味のなさを
スルーするような仕上がりでもなく、
絶妙のバランスが取れています。
伝統的な少女漫画ならではの、
ちょっと悪ぶっていても
純真な女の子たちの姿と、
「漫画」としても良さを
ぎゅっと詰め込んだ一作を
読みたい方にオススメです。
非常にシリアスで重い話で、
茶化すような感じでもありませんが、
かと言ってドロドロはしておらず、
厳しい中でも前に進める、
若者の良さが前面に
描かれているのも嬉しいですね。