タイトル | 図書館の主 |
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原作・漫画 | 篠原ウミハル |
出版社 | 芳文社 |
私設の小さな児童図書館。
そこには「図書館の主」がいます。
御子柴さんというその司書は、
口は悪いものの子供に慕われ、
本に対する愛情も人一倍で……
図書館と司書さんたちをメインに、
読んでこなかった名作たちとの
再会が楽しめる優秀作です。
図書館の主のあらすじ紹介
年末、酒の誘いを途中で切り上げた、
しかし家に帰っても一人という男性は、
夜間にも関わらず明かりがついている
児童図書館にふらりと入り込みます。
中にいた司書に親しく声をかけると
失せろと一喝されてしまいます。
不機嫌になった男性は、
子供向けの図書館だから読むものがないと
悪態を試みますが、
それに関しても論破され、
自分から身の上を語りだしてしまいます。
そんな中、本を片すのを手伝えと、
手渡された新美南吉の童話集の冒頭、
記されていた「うた時計」の記述に、
かつて親の威信から離れて成功しようと
家を飛び出した自分の荷物の中に、
父が時計を入れてくれたという
自分の記憶を重ねます。
頑張っていこうと思ったものの、
自分が思っていたのとは違う職場で、
しかも借金まで抱えた男性にとって、
「うた時計」の話は、
深く胸に響くもので……
図書館の主のネタバレと今後の展開は?
借りた本を返そうと再び図書館に
足を運ぶ宮本さん。
入ってみると優しそうな
女性館員さんが挨拶してくれて、
先日とはまったく違う雰囲気です。
宮本さんの現れた御子柴さんは、
悪態をつきつつも子供に
心底から懐かれていました。
そこに入ってきた少年、翔太は、
先ほど友達を突き飛ばしていて、
それを見ていた宮本さんは、
彼に注意をしますが、反省どころか
まともに相手もされません。
一方、本を借りに来た翔太は、
御子柴さんたちにうんざりしつつ、
チョイスした「宝島」を読んでいきます。
長年読み継がれてきたその冒険譚に、
翔太はすっかりハマり込み、
いじめっ子仲間にも同調せず、
ひたすら本を読んでいきました。
そして、再び足を運んだ図書館で、
御子柴さんに「宝島」の楽しさを語り、
読み終わり残念に思っていた翔太は、
御子柴さんから、
ここにはお前を待つ本がこんなにあると
力強く促されるのでした。
そして、翔太は「宝島」の面白さを
周囲にも語り、そのことがきっかけで
いじめていた子にもお礼を言われます。
図書館の主の読んでみた感想・評価
こう来たか、と唸ってしまいました。
私も図書館に通い詰めましたが
見る限り「司書」さんの仕事を
フィクションでメインに据えるのは
なかなか難しいと思っていました。
図書館を舞台にした名作には
「図書館戦争」がありますが、
現実とはかけ離れていますし、
有意義で大変だけれど見えにくい
司書さんの役割をどう作品化するか、
通っていても思いつきませんでした。
しかし本作は、私設図書館という
自由度の高い枠組みを設定し、
その上で、口は悪いが的確で熱い
個性派司書の御子柴さんをメインに、
魅力的な登場人物を配置。
しかしいわゆるキャラものとして
押していくのではなく、あくまで
主役は本と読者という基本を守り、
悩んでいる来館者たちに、
手がかりとなる一冊を示します。
それはまた、読者にとっても、
「名前だけは知ってる名作」との
久しぶりの再会だったりするわけで
ごく自然に感動してしまいました。
実際、図書館の常連になっても、
児童書を借りることは少ないですが、
子供に読めるということは大人も
読みこなせることでもあり、
本をチョイスする際の選択肢が、
本作で広がった気がします。
図書館の主はこんな方におすすめな作品!必見
学者さんや本屋の店主、そして司書さん。
本好きの方の多くが憧れる職業です。
しかし図書館員はどうしても地味、
あるいは目立たない職業なだけに、
物語の主役にはなりにくかったです。
私設図書館と司書をメインの本作は
その時点で本好きが待望したものであり、
さらには館内にいる司書さんたちの、
本を心底愛しており、そのために、
来館者に方針を示すことに
生きがいを感じているスタンスが、
まさしく理想の司書さんという感じです。
現実としては小説や漫画が好きでも、
子供向けの図書館は入りにくく、
また児童書は手に取りにくいのですが、
本書を読めばそのイメージは氷解し
、
子供向けとされる本の中からでも、
「今の自分のための本」を見つける、
そんな意欲が沸いてきます。
最近は特に出版不況が深刻化し、
倒産や電子書籍への移行などで、
本を扱う図書館も苦しいですが、
本書には、なぜ図書館があり、
そして司書がいるのかの答えが、
しっかりと提示されています。
大人向けに作られた構成と言い、
かつて図書館に通ってなかった人も
排除しないという意思が見えます。
御子柴さんの性格も、良い意味で
司書さん的ではなく斬新でいい感じです。