タイトル | 新ブラックジャックによろしく |
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原作・漫画 | 佐藤秀峰 |
出版社 | 小学館 |
治る手立ても時間もあるが、
タブー破りをしなければ、
世話になった知人の命が危ない。
この難しい状況に
斉藤先生はどう立ち向かうのか。
臓器移植という、他人の肉体を
使う「究極の医療」とその問題に、
筆の力で鋭く切り込む一作です。
新ブラックジャックによろしくのあらすじ紹介
研修に行く先々で、
強烈な事件を経験した
斉藤先生。
泌尿器科に移ってからは、
クールな近藤先生のもと、
比較的平穏な日々でした。
ナースの皆川さんとも
何だかんだとうまくやり、
恋人というよりは、
結婚も間近いカップルの
雰囲気があります。
しかしそんなある日、
かつて色々助けられたナースの
赤城さんが透析施設から
出てきたのを目撃してしまい、
斉藤先生は再び、
自分の臓器移植を含めた
難しい事態に踏み込みます。
数々の医療問題をえぐり出し、
読者に深く考えさせてきた
名作の新シリーズ。
新ブラックジャックによろしくのネタバレと今後の展開は?
数々の現場を乗り越え、医師として
着々と経験を積む斉藤先生。
皆川さんとの仲も親密になり、
結婚も視野に入りつつあります。
一方、経験豊富なナースとして、
しばしば斉藤先生を助けてきた
赤城 カオリさんは苦境でした。
精力的に働いてきた赤城さんですが、
実は非生活習慣系の糖尿病であり、
しかも病状は非常に重篤。
既に何年も透析を受け続け、
全身がボロボロになるところまで
追い詰められていたのです。
ある夜斉藤先生は、
赤城さんが透析クリニックから
出てきたところを目撃し、
彼女の病状を察します。
透析患者の生存率などの
厳しいデータを調べるうちに、
赤城さんが病院を辞める、との
噂を耳にする斉藤先生。
移植の情報も聞いていた彼は、
その専門家の先生と会います。
しかし決心がつかないまま、
赤城さんに会った斉藤先生は、
かえって怒られてしまいます。
当然どうすることもできず
帰宅した斉藤先生でしたが、
そこで皆川さんから、
赤城さんが倒れたと
連絡を受けたのでした。
新ブラックジャックによろしくの読んでみた感想・評価
ううむ、と唸ってしまう内容でした。
原因はハッキリしていて、治せる、
しかしそのためには「条件」があり、
クリアにはタブーを超えねばならない。
もちろん目前の命を救うのは
医師の本分ではありますが、「領域」に
入り込み過ぎても本分から外れ、
自分を待っている別の患者や
家族や恋人や友人に対しても
誠実ではいられないかも知れない。
この難しすぎる問題が、
突発質の糖尿病を発端に、
噴出してしまうのですから、
読者としても深く考えましたね。
実際、作中で斉藤先生がやった選択は、
個人としても医師としても相当に、
「危険」な領域のはずです。
腎臓を一つ取っても命に別状ない、
という話ではありますが、
本当に平気なら元から一つのはずで、
どこかしら影響が出てくることは
十分考えられます。
しかも斉藤先生は医者なわけで、
彼が体調を崩せば、数十人、
あるいは数百人もの患者が、
正しい診察を受けられないことにも
つながってきかねません。
それでもなお救いたいとなる
斉藤先生はやはり「普通」ではなく、
周囲の動揺ももっともな話ですが、
そんな彼だからこそ破れる壁があると
しっかり描き切っているのがいいですね。
また、斉藤先生自身も、様々な現場を
乗り越えたからこその貫禄というか
心の芯のようなものが感じられ、
前作とは良い意味で違った感じが
にじみ出ているのも良いところでした。
実際、糖尿病等々の問題は深刻ですから、
本書が広く読まれることがきっかけで、
良い方策が生まれて欲しいものですし、
あくまで「現実」に即して先を考える、
リアリティある医療漫画としての
存在感が健在なのも嬉しいですね。
新ブラックジャックによろしくはこんな方におすすめな作品!必見
非常に名作が多いのが医療漫画ですが、
一方で元祖「ブラックジャック」にしても、
「ブラックジャックによろしく」でも、
非常に「役割」がはっきりしていたという
特徴があります。
医者の不養生とは言うものの、
病気になれば人を治せないのが道理で、
だから主人公の多くは「健康」でした。
しかし、本作「新」で患者となるのは、
前作で有能なナースとして仕事していた
赤城 カオリさん。
斉藤先生の恋人である皆川さんとは
容姿も性格もまったく対照的で、
非常に印象的なキャラでしたが、
そんな彼女に強烈な難問を突きつけ、
斉藤先生にさらなる決断を促す役を
今回任されているんですね。
また、赤城さんが生きてきた状況は、
想像以上にハードかつ難しいもので、
斉藤先生や皆川さんはまさに、
人生の岐路に立たされます。
そうした人間ドラマ的な部分と、
医療の難題やタブーな領域に
踏み込む鋭さを融合させる、
見事な筆の冴えは今シリーズでも健在、
手術で難病が回復して良しとなる、
そんなハッピーエンドだけでない、
深い考察と現実に裏打ちされた
独特の説得力は、現実をも
深く考えさせるものがありました。
他の医療漫画よりも「解決」は
やや遅いものの、それだけに
独自の深みがある一作ですね。