タイトル | 空挺懐古都市 |
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原作・漫画 | 石据カチル |
出版社 | 小学館 |
海面上昇から逃れ、科学力で、
街を空に浮かせた「空挺都市」。
まるで魔法のようなこの都市は、
人を思い愛するには非常に難しい
特別な街でもあった。
SF的でもあり、幻想的でもある中、
人々の思いが切なく紡がれる、
ほろ苦くも濃密かつ丁寧な、
実に美しい一作です。
空挺懐古都市のあらすじ紹介
技術者になるべく、
学校に通っていた若者、
風波 トキ。
彼には一緒に夢を目指す、
親友近江 ヤエがいました。
学校に行くのも一緒、
遅刻するのも一緒というほど
仲良くしていたトキは、
壊れた時計を直してあげたりと
ヤエを応援していました。
しかし、油と洗剤で
手がボロボロになるほどの
実習をこなしていたヤエは、
燃料の「副作用」からか、
あれほど大事にしていた家族をも
忘れるようになっていました。
そして、ヤエと別れ
技術者になったトキもまた、
大事な記憶を欠落していました。
空挺都市で誰かを思うことは
非常に「難しい」ことだと、
トキはやがて知ることになります。
空挺懐古都市のネタバレと今後の展開は?
海面上昇が続き、
やがて地上は水に飲まれると言われる
近未来を思わせる世界。
人類はその中で、
街を空に浮かせた「空挺都市」を
構築していました。
多くの技術者の力と燃料により
浮いている人工的な街、
風波 トキも技術者の一人であり、
学校を卒業して街に移住してきた
若者でした。
忙しく仕事をする中、
「狐の嫁入り」に遭ったトキは、
笑いながらも泣きそうな顔をした、
和服を着た女性と出会います。
花宮 ユナと名乗る女性に、
トキは不思議なイメージを抱きますが、
思い出すことはできず、
そのまま彼女と話します。
ユナはコンビナートを抜け出し、
会いたかった人に会ったものの、
その人は覚えていませんでした。
その原因は「古妖精病」、
空挺都市で多発する病気で、
命には別状ないものの、
自分のもっとも大事な人を
忘れてしまうという病気でした。
通り雨が過ぎ去り、二人は
別れることになりますが、
トキはユナから、
髪飾りを受け取ります。
しかし、その翌日には
トキはユナのことを
覚えていませんでしたが、
ユナはトキに会って
泣きそうな笑顔を見せ、
トキはユナに特別な
感情を抱いていくのでした。
空挺懐古都市の読んでみた感想・評価
最初のページを見た瞬間、心が
動いてしまいました。
作中の登場人物も風景も、
とても美しいだけでなく、
ちょっとした表情や仕草、
本筋とは関係ない「間」に至るまで、
良い意味の緊張と充実があり、
悪い意味での緩みを感じることが
まったくありませんでした。
ストーリー全体も、
海面上昇という近未来的かつ現実的な
テーマを回避すべく、都市全体を
浮上させるという、
ある意味ファンタジーRPG的な
ビジュアルと解決策が飛び出し、
その「燃料」の秘密も幻想的で、
優れたゲームを見ているような
気分にさせられましたが、
一方で「燃料」の副作用による
「古妖精病」の症状に関しては、
それ自体がとてもロマンティックで、
映画の題材にもなり得るような
切ない深みを感じました。
つまり、まったく違うジャンルの
素晴らしい点を一度に
味わった感じになりましたが、
本筋の登場人物のやり取りや
事情が分かって気付く
微妙な心の機微、
話をいっそう盛り上げる
テンポや間の妙味は
まさしく優れた漫画作品であり、
設定や舞台装置に頼らない、
素晴らしい地力を感じました。
空挺懐古都市はこんな方におすすめな作品!必見
近未来を描いたSFと、架空の世界を描く、
ファンタジー的作品は、「現実ではない」
点において、とても良く似ています。
だからこそ、優れたSF作品を読むと、
無機質さとともに幻想的な感じを
印象として受けることがありますが、
本作はその点で言えば、まさに
極めて優れた近未来的作品と言えます。
恐らく温暖化などの影響による
海面上昇から逃れるべく、
「空挺都市」を築いた人々を、
本当の意味で支える
浮力を生み出す「燃料」、
しかしその「燃料」は、
人間から採取する種類のものという
一見ユートピア的にさえ見える
都市の裏側に見え隠れする、
途方もないほどの犠牲と
その負担さえいとわない
良くも悪くも強烈な意志、
大事な人の記憶だけを
すっぽりと抜け落としてしまう
「古妖精病」の切なさ等々、
非現実的と現実的の境界で、
異様な存在感を示す世界を、
素晴らしく美しい描画で構築する
本作は、少女漫画の叙情性と
現代ゲームの壮大さが
一体となったほどの存在感があり、
極めて多くの層に感動と満足を
もたらせる一作だと思えますし、
まったく隙と緩みがない構成や
ふとした風景の素晴らしさは、
本格SFファンタジーを読みたい層にも
フィットするレベルにあると思います。