タイトル | 蒼天航路 |
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原作・漫画 | 王欣太・李學仁 |
出版社 | 講談社 |
歴史において、あまりにも
当然のように記される
心象描写に疑問を突きつける怪作!
膨大な資料の精査を背景に、曹操・劉備・董卓・馬超・・・
これまで切り捨てられてきた歴史上の事実を基に
人物が再構築され、『三国志』の世界が色鮮やかによみがえる!
蒼天航路あらすじ紹介
中国・後漢末。
権力が腐敗し、世が乱れた時代。
後に『乱世の姦雄』として
歴史を強烈に揺さぶる曹操。
その幼少時代は権力者の家に育ち
書物を瞬く間に暗記する。
しかし不良たちと交流し
女に声をかける奔放なものだった。
夏侯惇・夏侯淵・曹仁・曹洪が
李烈という男の率いる爆裂団と争い、
窮地に陥っていると聞いて助けにいく曹操。
李烈とは始皇帝の再来を目指す
危険な男だと説明を受ける。
何より李烈は人をたきつけるのに長じ、
数百名の部隊を作り上げてしまった。
多勢に無勢、こうなったら夜襲をかけて
暴れまくるしかないと4人は気炎を上げる。
だが曹操は「ダメだ」と一喝。
今夜は満月で進行ルートが
照らし出されてしまうため
夜襲には不利であるとも。
ではどうするのかとの問いに
「敵は舌だ」
と謎かけのような言葉で、
自分の舌を出して見せる。
呆気にとられる4人だが、
最年少の曹操に全てを決定させる
流れに自然となっていた。
爆裂団の人数に対抗して
こちらも人を集めよう
との提案も却下。
曹操を含めた5人だけで李烈に相対する。
始皇帝が君子であるとは初耳だ、
李烈の深遠なる考えをうかが
いたいと挑発する曹操。
独自の論と野心を語る李烈は
弁論に強固な自信を抱いている。
そういう人間は自身へ向けられた論戦を
無視できないというのが曹操の読みだった。
蒼天航路ネタバレ・今後の展開
爆裂団を傘下にし、1人の女性を巡って
最大の権力者・張譲との
トラブルを引き起こす。
曹操は自分の『天命』を疑わず、
己の道を邁進します。
そんな曹操が最初に選んだ職は『北部尉』
すなわち洛陽北門の警備隊長の地位で、
家柄や権力からすればもっと
上の地位に行けたはずだと
友人の袁紹から心配されます。
が、これは曹操自ら望んで就いたものでした。
着任してまず、警備隊のガンとなっている
不良隊士たちをあぶりだす。
そのリーダーに罰を与えた上で
自分の右腕として補佐を務めさせます。
鮮やかな手並みで警備隊を掌握した曹操。
賄賂で違反者を見逃す悪習を止めさせ、
厳格な取締りによって治安を回復しました。
『北門の鬼』と畏怖を込めて
呼ばれるようになった曹操は、
同時に出る杭ともなってしまいました。
巨大なバックを持つ権力者に対しても、
禁令通りに棒打ちを執行する曹操。
それを煙たがる者が、
皇族に禁令破りをそそのかします。
いつも通りに刑の執行を宣言する曹操。
騒ぎの声はいつにも増して大きく、
やがて不気味な静寂に包まれます。
あまりにタイミングよく
突入してくる兵たち。
しかしこれこそ曹操が逆に張った罠でした。
全ては、皇族をたぶらかして
死に追い込もうとした
悪漢を捕らえるための芝居だったのです。
しかし曹操の狙いは
これだけでは終わりません。
皇族とのパイプを得た曹操は
この国最大の闇である
『党錮の禁』にメスを入れるのです。
蒼天航路読んでみた感想・評価
既存の『三国志』ものではスルーされがちな
事件・人物をキッチリ掘り下げてくれているのが
何よりも嬉しいところです。
例えば『傷寒雑病論』の張仲景。
残念ながら本人は登場しない。
しかし治療による回復の経過はもとより、
誤った治療を施した場合の悪化の様子までを
記していることに
「この張仲景というのは何者だ?」
と華陀が驚愕するシーンが描かれています。
もちろん神医・華陀と
曹操のやり取りはそれ以上。
当時、まだ医術が占いの一種のように評価され、
軽んじられていた時代。
医術を学問としてシステム化しようとする曹操と
心に重きを置き現場主義に徹底する華陀との
激しい主張のぶつかり合いが描かれるのです。
例えば天下三分の計。
その案を聞いた時、まず劉備は激怒します。
「天下を饅頭みたいに分けてんじゃねぇぞ」
と孔明に頭突きをかますほどの怒りぶり。
後に天下三分を受け入れた時、
断崖絶壁から差し込む光と山々に
切り取られた空を見て
「あれがおいらの天じゃねぇのか」
と美しい情景と共に、切り取られた
天下と先の展望が暗示されるのです。
もちろん史実を読み解けば、
天下三分はもっと単純な戦略論と
見るのが正しいのでしょう。
しかし結果やその先の展開を知っている私たちと、
何もかもが未知である当時の人々とでは
斬新な発想に受ける衝撃はまったく別物のはずです。
歴史を知る上でつい陥ってしまう
「わかったつもり」を打ち砕きメスを入れて
再構築するきっかけを
与えてくれるのが本作品なのです。
三国志好きはもちろん三国志入門書としてもおすすめ!
日本で『三国志』といえば
明の時代に史実を基に創作された
『三国志演義』を指す。
さらにそれを日本人向きに執筆された
いくつかの小説がその後の
マンガなどのベースになっています。
一種の呪縛とも言える
『演義』から解き放つ鍵がこの『蒼天航路』。
同時代の資料をあまねく網羅し、
らに作者の感性を大幅に盛り込んだ
『三国志』の世界。
他の小説・マンガ・ゲームなどで
『三国志』を味わったことのある人には
必読と言っても過言ではありません。
これまで何となくスルーしてきた
武将たちの新たな魅力に気付けば、
既存の作品も面白くなること受け合いです。
本作を読んでもう一度、
これまでの『三国志』を
振り返ってみましょう。
無個性に見えた人たちが
色鮮やかに主張を始める。
と同時に、既存の『三国志』ものも決して
惰性で描かれている
わけではないことに気付くはずです。
もちろん『三国志』の入門としてもオススメ。
特に登場人物が多すぎて覚えられないと
ギブアップした人なら、
個性豊かに描かれた本作こそ
読みやすく感じるはずです。
きっと孔明に出会った劉備のように、
自分だけの『三国志』が見えてくるでしょう。
史実の解釈は人それぞれなのですから。