タイトル | 無頼記者 |
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原作・漫画 | やまさき十三 園田光慶 |
出版社 | ビーグリー |
仲間とつるまず、酒と野球を愛し、
中立の原則にも縛られない
無頼記者、熊五郎。
しかし彼の野球選手に対する視線は
厳しくも温かく、自分が傷つくことも
いとわずに踏み込める度量も
有していました。
今時風とは何もかも違う、いかにも
「昭和」な記者と野球人たちが織りなす、
スポーツ・ヒューマンストーリーです。
無頼記者のあらすじ紹介
野球経験もあるスポーツ記者の熊五郎には、
単に仕事の相手、取材の
対象というよりもずっと親しい
関係者が大勢いました。
ビックスターズに所属する関田も
その一人でしたが、彼は十年も
尽くしてきた球団からクビを切られて
荒れに荒れていました。
とりあえず飲み代を渡して別れた
熊五郎でしたが、後日、趣味の
競馬を見て楽しんでいる彼の家に、
関田の妻子がやってきます。
関田の奥方が涙しているのを見た
熊五郎は、関田のところに
踏み込みます。
外に出ようと持ちかける熊五郎に、
関田はもう自分が死ぬつもりだと
打ち明け、最期を見届けてくれと
言い出すのでした……(「球情」)。
無頼記者のネタバレと今後の展開は?
スポーツ記者の熊五郎は球場の
従業員食堂で、上機嫌に鼻歌を歌う東
浩一(トンヂ)と出くわします。
どうしてこんなところでサボっているんだと
熊五郎が聞くと、トンヂは監督さんに
連れられて病院にいったら、十二指腸に
虫がいる、的なイマイチ要領を得ない
答えを返してきます。
それで野球を止められているわけですが、
トンヂは平然とビールは麦茶だと
思っていると飲酒を続けます。
と、そこに現れたのが監督の野邑。
彼はトンヂをどやしつけて帰してしまうと、
熊五郎に、彼がかかっているのは
十二指腸潰瘍だと告げます。
野邑は、代打で出た時にホームランまで
打ったトンヂの野球能力もさることながら、
今時珍しいぐらいの「野球バカ」である
彼の気質を買っており、だからこそ
絶対安静を命じているのでした。
しかし、自分のことを笑った
相手チームの主力選手を
ポカリとやっても、怒りどころか笑いと
共感を招いてしまうほどファンに
愛されていたトンヂも、病気となれば
野球はできませんが、野球ができなければ
苛立ってしまう性分でもありました。
そんな折、熊五郎はトンヂを見舞います。
心底から来訪を歓迎したトンヂは、ミットを
装着してはポンポンと叩き、投手の
気分が良くなる音を出せるよう
研究していたのです。
その姿に意気を感じた熊五郎は、
少しだけならと一緒に
飲むことにしました。
母親が、上京してから初めてと
いうほどに喜びを前面に出した
トンヂですが、その夜あっけなく
亡くなってしまいました。
悲報を監督の野邑と熊五郎が
聞いたのは試合中でした。
誰にも言わずマスクを着けた野邑は、
こみ上げてきた涙のために悪送球を
してしまったほどの悲しみようで、
熊五郎もまたショックを受けていました。
しかし、野邑はまさにチームを
率いる勝負師でした。
バックスクリーンに向けて
予告ホームランをしてみせ、実際に
打ち込んでみせたのです。
まさに香典がわりのホームランでした。
試合後、選手たちや熊五郎は、
朴訥で温和なトンヂを思い出しては
涙を流すのでした(「一球落涙」)。
無頼記者の読んでみた感想・評価
キャラも雰囲気も一見クラシカルで
地味ですがそこがかえって良かったですね。
「記者」をテーマにした作品を
進めていくとなると、どうしても
社会問題や正義といった難しい話に
なってしまいがちなのですが、本作の
主人公、熊五郎はスポーツの
現場一本ですので、そうした大きなことに
ならないんですね。
もっとも、だからといって不熱心な
わけではなく、記事は足で稼いで
しっかりものにしますし、後輩たちが
冴えない状態の時は、感情的になって、
つまり中立を原則とする「ルール」を
曲げてでも叱咤激励するという
力強さも秘めています。
昭和の球界にいきる選手たちに
焦点を当てていますが、どの
エピソードも泥臭く熱く、
皆必死に戦っている感じが
出ているのが素晴らしかったです。
プロ野球選手がオリンピックに出たり、
ましてやWBCの代表に
選ばれたりするような時代ではない
頃の話ですが、「国」という
大きなものがなかったが故に、
より個人的な情念が滲む
エピソードが多く、今からすると
本当に新鮮でした。
打撃投手の団や戦力外を食らった
関田、代走専門の中田など、万能型の
名選手と言うよりは、一芸に秀でた、
どこか傷があるタイプが多かったのも
個人的には大満足でしたね。
欠点ばかりの自分としては、完璧な
名選手よりも、そうした選手の方が
身近に感じたりするものなので……
無頼記者はこんな方におすすめな作品!必見
新聞が売れなくなった、と言われて
久しい現代ですが、有名全国紙よりも
スポーツ紙の方が売れ行きが悪い、
なんて話も良く聞きます。
考えてみれば確かに、最近のお店は
スポーツ新聞を置いているような
ところは少ないですし、会社帰りに
新聞を広げるといった人も
めっきり減りました。
しかし、本当にそれだけなのでしょうか。
最近のスポーツ紙は今ひとつ「熱」が
欠けているようだと評されることも
多くなっています。
訓練を積んだプロが日夜記事を
執筆するために動いているのに、
昔とは比べ物にならないほどの
情報機器を使えるのに昔以上に
面白くないのであれば、それは
能力以外の「何か」が欠けているから
ではないかとも思えてきます。
必要なものは何なのか、正解を
出すのは難しいですが、本書に出てくる
記者、熊五郎は人とつるまず酒も飲む
典型的な無頼である一方、まるで
兄弟のように選手と接し、親しく酒を
酌み交わすこともあれば、
叱り飛ばすこともあります。
しかもその時抱いた印象を記事に
反映させての「叩き」までやってのけます。
これは明らかに「マナー違反」なのは
間違いありませんが、だからこそ彼の記事も
試合を見る目もただならぬ熱がこもり、
そのエネルギーが選手を
発奮させていくのです。
このホットさこそ、今時風の行儀良さとは
かけ離れた本作の魅力であり
メディアの面白さでもあります。