タイトル | 僕のジョバンニ |
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原作・漫画 | 穂積 |
出版社 | 小学館 |
深く、情熱的な音色を響かせるチェロ。
その音色によって引き寄せられた
才能ある少年二人の人生が、
協奏するように動き始める。
のんびりとした故郷の描写から、
人間の雰囲気まで全てが
演奏へとつながっていくような、
情熱と緊張感溢れる演奏シーンが
人の魂を震わせていく、
傑作音楽漫画です。
僕のジョバンニのあらすじ紹介
音楽の才能に恵まれ、実績を重ねながらも、
周囲とのズレや孤独を感じていた鉄雄は、
大規模な海難事故が近くで発生し、
その事故で生き残ったものの、
母親を亡くしてしまった子を
鉄雄の家で預かることになったため、
金髪でハーフの少年、郁未と出会います。
初めはギクシャクしていた二人も、
チェロの音色を通じて仲良くなり、
未経験者の郁未が鉄雄と協奏するほどに
親しみを増していくのですが、
輝かしいほどのチェロの才能は
二人をそのままにしておきませんでした。
僕のジョバンニのネタバレと今後の展開は?
田舎の村の家に暮らす少年、鉄雄。
学校には友人がおり家族も温かく、
故郷ものんびりとしていましたが、
彼は孤独を感じていました。
鉄雄は東京の大会に出ても
優勝してしまうほどの
チェロの腕前を持っていましたが、
友人は音楽を深く理解してくれず、
かつて弾いていた兄も、
もうチェロは止めていました。
協奏曲を弾こうにも、相手すら
見つからない日々を送る
鉄雄でしたが、
彼は一人の少年と出会います。
彼は、鉄雄が住む日良至で
大規模な海難事故が起き、
死者不明者が多数出てしまう中、
自力で岸にたどり着いた、
橘郁未という名前の、
金髪でハーフの少年でした。
大人の事情からしばらく郁未を
家で預かることになったために、
鉄雄は戸惑いながらも交流を
試みていきますが、郁未は
まるで抜け殻のようで、
鉄雄が憤ってしまうほど
無反応でしたが、
鉄雄の弾くチェロに反応し、
その「特別な音色と楽曲」に
心を開いていくことになります。
その後急速に鉄雄と仲良くなる郁未は、
鉄雄とともにチェロを弾きたいと提案、
彼もまた音楽の道に入っていくのでした。
僕のジョバンニの読んでみた感想・評価
多くの音楽漫画が世にありますが、
チェロ奏者が主人公という作品は
ほとんどないのではないでしょうか。
チェロを弾くキャラと言うと
「エヴァンゲリオン」の
碇 シンジ君が有名ですが、
扱いが難しいバイオリン系の楽器で、
しかもバイオリンよりも大きいので
身近に感じるのが難しいんですね。
基本的に楽器は大きくなれば高価に、
そして難易度も上がりますから、
チェロはまさに「高嶺の花」ですが、
本作では主人公の鉄雄や
素晴らしい奏者たちを通じて、
その素晴らしさを示しています。
ピアノよりも落ち着いていて、
しかも幅が広いチェロの良さを
紙面の表現のみで引き出している、
筆力には素直に素晴らしいと
感想を抱くことができましたし、
生まれ育った環境などの関係で、
まだ年少ながらも孤独を感じる
鉄雄の感情描写や、生還した
郁未のどこか底の見えない部分など、
人間的な部分も非常に深みがあり、
しかもそれが故郷の風土や
社会性にも絡んだ形で
鉄雄たちに良くも悪くも
絡んでくるような複雑さも
「故郷は素晴らしい」だけで
済まない重層的な雰囲気があり、
ほのぼのとした気持ちと同時に
閉塞感さえも感じてしまいました。
様々な面で「人間」が
絡むからこそ、音楽描写も
より深くなっているのかも知れません。
僕のジョバンニはこんな方におすすめな作品!必見
音楽や演奏者をテーマにした作品は多く、
漫画の場合実際には聞こえないため、
その「背景」がとても重要になってきます。
厳しい争いを勝ち抜いて演奏家になる、
主人公の強い思いや動機ですとか、
他の人には想像もできない才能など、
人を惹きつけるような要素がしっかり
盛り込まれているかどうかで、
読み手の印象も変わってくるものです。
本作は周りがまったく楽器演奏に
興味を示さない漁村の中で、
楽器に熱中した元地主の家に生まれ、
音楽をやらない周囲の人との
ズレを感じつつも実力を示す
鉄雄の目を通して描かれています。
優れた才能と素晴らしい
楽器と家族に囲まれながらも
やり切れなさを覚える鉄雄の
深い孤独感はそれだけで
優れた作品になり得るものですが、
本作の場合は悲惨な海難事故から、
鉄雄のチェロの音色という
「声」を聞き生還してきたという
ハーフの少年郁未が、
強烈なほどの信頼を寄せてくる一方で、
チェロの腕前に関しても
鉄雄を驚かせるほどのものがありと、
予想もつかない展開が次々に
訪れてくるので、
いわゆる「王道展開」に慣れてしまい
マンネリを感じている方も
新鮮な気持ちで読むことができます。
のんびりとした田舎町を舞台に、
いい人たちが大勢出てくるという
序盤の構成ではありますが、
一方で楽器演奏に関する
「説得力」も強烈なものがあり、
才能にも様々な段階があるという、
厳しい現実さえも
突きつけているような、
言わば少年漫画的でないシビアさも
非常に「音楽的」でもありました。