タイトル | フラグメンツ |
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原作・漫画 | 山本直樹 |
出版社 | 小学館 |
親のお金の問題で、「妾」に
なることになった雪子。
しかし今時「妾」を堂々と
家の中に招き入れ、学校にも
通わせる海馬をはじめ、
町の人はどこか独特の
雰囲気を持っていて……。
巨匠山本直樹先生が描く、
ハードでどこか透明感のある
独特の青春物語です。
フラグメンツのあらすじ紹介
女子学生の雪子は、親の借金のために
「妾」として、ある町の名士、
海馬太郎のもとに行くことに。
しかも表向きは「メイド」なので、
海馬の妻や息子とも、同居しながら
暮らしていく奇妙な関係ながら、
海馬は一切「手加減」はせず、
雪子の「立場」は周囲にも伝わりと、
極めて特殊な生活が続きます。
しかし、町の保守的で、しかも
他に類をみない独特の雰囲気は、
そんな雪子を当たり前に受け入れ、
雪子もまた徐々に、その環境に
順応していくことになるのでした。
フラグメンツのネタバレと今後の展開は?
女子学生の雪子は夢見がちな
何となくフワフワした性格ですが、
父親の借金のために、
海馬太郎という人の家に
「妾」になることになっていました。
しかしその海馬さんは、
非常に大人しい雰囲気で、しかも
地元の町長をやっている名士であり、
ずっと前から変わらないような
田舎町を代々率いる家柄でした。
しかも海馬さんは、表向きは
雪子をメイドとして雇った関係上、
学校にも行って貰うし、
彼の妻、鳴子や、彼の息子肉彦と
一緒に暮らして貰うと
言ってきました。
もちろん雪子には選択権はなく、
しかも海馬さんは平気で雪子を
好き放題に扱ってきます。
雪子はそうした「扱い」は
受け入れていましたが、
鳴子さんが毒物マニアなことや、
雪子の「立場」が学校の皆にまで
知られていることまでは
聞いていませんでした。
とは言え雪子は徐々に環境に馴染み、
肉彦や周りの人々とも、
ハードかつ奇妙な交流を、
持つようになっていきますが、
町に存在する独特の雰囲気の根幹が
明らかになることはありませんでした。
フラグメンツの読んでみた感想・評価
典型的なほどの「不幸」を
山本作品ならではの斬新さで
独特の世界を生み出しています。
主人公の女の子である雪子が
売り飛ばされるという導入で、
割と救いが期待できない種類の
ハード系ストーリーなことが
暗示されているわけですが、
独特の世界が広がります。
「人買い」という悪行を
堂々としているのに、
トップの座に居続ける主人、
美しいものの毒物マニアで、
「殺人」の噂さえある奥さん。
そしてそんな環境でも
普通に学校に通わせる、
妙な懐の広さ……、
どれ一つとっても「理屈」が
通用しない怖さがあり、
他に類を見ない斬新さです。
しかし、無茶苦茶な状況なのに
何故か物語全体に整合性があり、
描写事態が強烈にハードなのに、
妙な爽快感と清潔さがあるなど
あらすじだけを読んでいては
分からない要素が満載です。
それにしても、「慣習」だけが
現代から取り残されているという、
まるで夢の中のような世界が、
何故存続しているのか、
雪子に興味を持った真意は何か、
謎が謎を呼ぶ感じでした。
その「分からなさ」と、雪子たちの
奇妙なほどの透明感は、
山本直樹作品の中でも恐らくは、
トップクラスだと思いますが、
エンタメ作品としても、
非常に楽しめる作品でもあります。
フラグメンツはこんな方におすすめな作品!必見
生活に困った家の娘が、地方の有力者に
売り飛ばされた結果散々な目に遭い、
しかしその中で人生の転機をみつける、
こういった物語の多くは、明治あたりの
日本を舞台にされたものが多く、
内容もそれ故に「重い」感じです。
当然、現代風ではリアリティがなく、
話の背景的にも重いのが普通ですが、
一方で「画一的」な雰囲気は否めません。
しかし、「RED」をはじめ、数々の
鮮烈な個性を放つ作品を世に出した
山本先生の筆による本作では、
非常に現代的な装いの中に、
異様なまでに「保守的」な要素が
加わっており、他にはない
独特の雰囲気が楽しめます。
ハードなシーンはもちろん多く、
雪子自身、売られた身の上で、
しかもその先には「毒殺魔」的な
噂のある女性すらいるなど、
非常に殺伐しているんですが、
不思議と日常は淡々としています。
背徳的な部分も含めて、まったく
タブーのない話を読みたいが、
陰惨な話は嫌という方に最適です。
また本作は山本直樹作品の中でも、
より「実存」からわずかに離れた
微妙な虚無感が全面に出た作品で、
最新完結作である
「分校の人たち」の日常感にも
どことなく近い部分があります。
ただ「分校」は、教師や親など
支配的とされる存在の干渉は
割と控え目でしたが、
本作では、がっつり全力で
支配されるが故の奔放を
満喫できる魅力もありますね。