タイトル | ほんの恋など |
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原作・漫画 | カワカミコマ |
出版社 | マッグガーデン |
週刊誌で熱心に仕事をしていたが、
急な異動で文芸誌に入った小山。
しかし小山が担当することになった
看板作家田村は、ひょうひょうとした
無関心さを持っていて……。
「小説」という、ごまかしのきかない
表現形式を通じて、作家と編集者が、
本当の意味の全力を示していく、
王道的な熱さすら感じる、
心に染みる業界もの物語です。
ほんの恋などのあらすじ紹介
週刊誌でバリバリと働き、
男性とは強烈に距離を作り、
個性的な立ち位置を確立する、
若手女性編集者、小山。
しかし彼女はある日突然、
文芸誌への異動を命じられ、
最近作品が書けていない、
看板作家の田村の担当を
命じられることになります。
小山にとって田村の作品は
思わずシュレッダーに
かけたくなってしまうほど、
大嫌いな代物でしたが、
ひょうひょうとした態度の田村に、
かえって闘志をかき立てられます。
しかし、田村の現代の作風は、
元々から存在していたものではなく、
実はヒットする前に、今となっては、
編集に処分を依頼するほどに、
封印したくなっている「姿」が
確かに存在していたのでした。
ほんの恋などのネタバレと今後の展開は?
バリバリと働く女性編集者、小山果絵。
膨大な量の仕事にもメゲず、さらには
男性からの些細なボディタッチをも
全拒絶するほど徹底した毅然さで、
業務をこなしていく彼女ですが、
ある日編集長から「文芸トヨシマ」への
異動を命じられます。
辣腕編集長のたっての頼みであり、
加えて弱みもあるので逆らえずと、
納得しにくい理由を聞いた小山は、
早速その辣腕編集長荒川に
挨拶することになりますが、
彼はかなり食えない男性でした。
小山に命じられたのは、
悲恋ものでヒットを飛ばして、
雑誌の看板にまでなったものの、
最近構想が進んでいないという
田村健介の担当でした。
しかし田村の本によって、
小山の中のある嫌な思い出が
蘇ってしまったために、
うっかり小山は田村の本を
シュレッダーに押し込みかけてしまい、
しかもそれを他人に見られてしまいます。
悪いことにそれを目撃した男性こそ、
本の著者である田村であり、
小山は完全なやらかしによって、
クビをも覚悟するハメになりますが、
田村はかなり柔和であり、
小山も「正直に」感想を述べます。
もっとも、いくらえげつない系の
主人公の小説とは言え、
作家に面と向かって作品を、
「大嫌い」だと言ってのける人は
極めて珍しかったようで、
田村たちは爆笑します。
一方、担当に対しても
関心がないと言い放つ田村に、
小山は叩きつけるように、
原稿を書かせてみせると
宣言するのでした。
ほんの恋などの読んでみた感想・評価
今流の業界物語と思いきや、
非常に熱くしかも繊細な
昔ながらのやり取りがあり、
本好きとしては素直に
心が熱くなりましたね。
本作のポイントは、
主人公の小山さんと田村先生の
絶妙な関係性にあります。
一見しても、マイペースな作家と
熱血担当ということで、
うまく凹凸がハマった感じですが、
その内面の部分に関しては、
より深く分かり合える部分があり、
だからこそ距離を詰められるんですね。
直接的なことを小山さんが言っても、
場の空気が悪くならず、一方の
田村先生がスキンシップを取っても、
小山さんは動揺しない感じで、
理想のカップルの雰囲気ですが、
本作ではそうはいかないんですね。
その「原因」に心の内面まで
さらけ出さねばいいものは書けない
「小説」を置いたあたりが、
本作の巧みな部分であり、
同時にシビアな部分だと思いました。
何しろ「本音」がいくばくかでも
形になっているわけですから、
それを無視することは難しく、
多くの夫婦のように、無意識に
うまく距離を取って良い関係を
築くことができないのは辛いです。
しかし小山さんも、元々田村先生と
交際していたわけではなく、
仕事としてやっているので避けられず、
また避ける意思もありませんから、
読み手としては「分かっているのに」と
心を揺さぶられてしまいました。
また、うまく「キャラ変え」して、
社会的成功を手にしたものの、
そのために書けなくなった作家像も、
驚く程にリアル感があり、
プロアマ問わず創作に関わる方には、
心が動くものがあるのではと思いました。
ほんの恋などはこんな方におすすめな作品!必見
どれだけささやかな刊行物であっても、
全力で人前に出すものである以上、
そこには本を作る編集者と、
書きたいものをものにしたい作家の、
せめぎ合いにも似たやり取りが
しばしばあるものです。
その関係性は表現のジャンルを問わず、
共通なものですが、中でも強烈なのが、
作家一人で違う世界を書くことになる、
小説の世界ではないかと思います。
本作は出版社サイドの女性を
主人公にした「業界もの」であり、
真面目で頑張り屋な小山さんの情熱は、
名作「編集王」にも通じる感じですが、
万事個人プレイの小説家とぶつかるため、
その人間対人間の構図はより鮮烈です。
今や本気の小説のお仕事でも、
利便性や証拠保全などの関係もあり、
メールだけで済ませることも多い中、
クラシカルな心と心のやりとりを
満喫したい方にはまさに最適の
優れた一作だと言えるでしょう。
また、本作は古式ゆかしい文芸誌が
作中舞台になっていますが、
リアルな出版不況の影はなく、
むしろ部数倍増でノリノリなので、
本をとりまく嫌な現実が、
雑音にならない点もいいですね。
恐らくあと二十年もしたら、
こうした関係性は世間では
見られにくくなるでしょうし、
だからこそ今読まれるべき
意義がある良作だと思います。