タイトル | ウォッカ・タイム |
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原作・漫画 | 片山まさゆき |
出版社 | 講談社 |
時は1980年代。
世界は米ソ二大陣営による
「冷戦」の只中。
秘密のベールに包まれた
鉄のカーテンの向こう、
ソ連・共産党の中枢で進められる
闘争の数々……。
政治もイデオロギーも、
すべては「ギャグ」の上に
成り立っていた?
東西の首脳たちが
世界的規模で巻き起こす、
(珍)外交!
社会主義と資本主義、
勝つのはどちらだ?
麻雀コミックの奇才、
片山まさゆきが「ソ連共産党」の
内幕(?)をえぐる、
ポリティカルギャグ!
ウォッカ・タイムのあらすじ紹介
1980年代半ば、ソビエト連邦の
最高権力者である共産党書記長に就任した
チェルネンコは悩みを抱えていた。
「人気がない」
「発言力なし」
「健康に不安」
歴代指導者の中でもっとも影が薄いと
いわれ続けた彼は、
秘書のギャルズスキーと
KGB諜報員メンタイコの協力のもと、
起死回生のために様々に手を尽くす。
しかし、とる策はどれもこれも
裏目に出るばかり。
人々は、今、目の前にいる
チェルネンコへの関心も敬意も
示すことなく、
彼は空気同然に扱われて終わる。
そのたびにチェルネンコは
決まってこう言った。
「彼らにシベリアの冬景色を
見せてあげなさい」
こうしてソ連中枢は今日も
動脈硬化状態……。
さらに悪化する健康状態のなかで、
後継者争いまで始まり、今日も
彼の悩みは尽きることがない……。
ウォッカ・タイムのネタバレと今後の展開は?
影の薄い指導者と揶揄され続け、
何とか人気上昇を図ろうとする
チェルネンコ。
健康状態の悪化や発言力のなさから
始まった後継者争いに対して、
「ソ連指導者の法則
(別名ハゲフサの理論)」を適用して
抵抗を図る。
初代レーニン(ハゲ)、
2代目スターリン(フサ)、
3代目フルシチョフ(ハゲ)、
4代目ブレジネフ(フサ)、
5代目アンドロポフ(ハゲ)。
ハゲ→フサ→ハゲ……と繰り返される
書記長就任のための法則。
チェルネンコはフサであり、
次期書記長はハゲになるはず。
そこで、その有力候補・ゴルバチョフに
叩いて発毛を促す某育毛剤を送り付け、
フサフサ頭へとチェンジさせる。
一方で、この理論に気づいていた
グロムイコ外相は
次期書記長の座を狙い、
床屋で丸坊主にしていたが、
ゴルバチョフのフサフサ頭にふれて
衝撃を受ける。
同時に共産党大会では
チェルネンコが自ら続投宣言。
党内の風当たりを恐れたグロムイコは
急ぎゴルバチョフと同じ育毛剤で
フサに戻すが、
その直後にチェルネンコ様
態悪化の報が入り、
慌てて丸坊主に戻す。
これで一安心、と思った矢先に、
チェルネンコは元気、
との報でまた丸坊主に。
さらにまた様態悪化の報が入り、
フサに戻すが、
戻った直後にまた様態悪化……
でこの繰り返しの果て、
ついにグロムイコは流血。
ゴルバチョフはフサフサで若返り
ディスコで踊りまくる。
そのニュースを報じるプラウダを
眺めてほくそ笑むチェルネンコは、
今日も療養先のサナトリウムで
美人看護師たちと
イチャイチャしていた……。
健康と権力という二重の不安を
抱えながら、深刻な生活物資不足、
INF(中距離核戦力)削減交渉、
ベルリンの壁問題、に「独自」の
スタンスで立ち向かうが、
ついに力尽きてしまい、
物語途中(史実通り)での
主人公交代となる。
書記長就任前より、
英国サッチャー首相などと
独自のルートを気づいてきた
ゴルバチョフが書記長に就任。
チェルネンコの側近だった
ギャルズスキーもメンタイコも
あっさりとゴルバチョフに
鞍替えしてしまう。
レーガン米大統領や
ワインバーガー国防長官、
日本の中曽根首相などの強敵と
対峙しつつ、
SDI(戦略防衛構想)や
アフガン介入問題、
アフリカの飢餓といった
問題に立ち向かう、
若き書記長がとる方策とは……。
ウォッカ・タイムの読んでみた感想・評価
ほぼリアルタイムで初見している。
当時にしてみればかなり真剣に
議論されたような内容ばかりだが、
今振り返ってみると
それゆえに感慨深いところもある。
ギャグとしては、当時の基準で
見なければわからないような
内容が多い。
ベルリンの壁で壁打ちテニス
している奴がいる
→「太い眉」がみえる
→「石原真理子か?」
→「いえ、中曽根康弘です」
NATOのイメージ戦略ポスターとして、
サッチャー首相と恐竜を組み合わせ、
コピーが「うれしいね、サッチャー」
→1984年当時、糸井重里氏による
西武グループのポスター
「うれしいね、サッちゃん」のパロディ。
このようなギャグを入れることを
短絡的とみる向きもあるが、
長い目でみると逆に時代が
反映されていて面白い。
INF削減交渉のシーンでは、
会議ではなく、プロレスで決める形で
物語が進む。
レーガン大統領が先制攻撃で
繰り出す技が「領空侵犯攻撃」で、
これにチェルネンコが
「撃墜チョップ」で応える
(元ネタは「大韓航空機撃墜事件」か?)。
「アフガニスタンラリアート」で
いったんはレーガンをマットに沈めたと
思いきや、流血しつつも
「私はカーターとは違う」と
「グレナダスープレックス」
(「米軍グレナダ侵攻」が元ネタ)で反撃。
そこに乱入するのが
「国際はぐれ軍団」、
イラン・ホメイニ師、
リビア・カダフィ大佐、
キューバ・カストロ議長。
最後は大乱闘になり交渉決裂です、
で終わるという。
今やったら炎上しそうなところも
あるが、絶妙な感じで
風刺されている。
逆に、「ウォッカタイム2」として
続編をつくったらどうか、
とすら思うこともある。
現代なら、ソ連の後継、
ロシアだけでなく、米国や日本、中国、
他にも個性豊かな「役者」が
当時以上に揃っていると思うのだが。
ウォッカ・タイムはこんな方におすすめな作品!必見
何故か政治パロディと麻雀は
縁があるようで。
この後に、各国首脳が同じように
「バトル」する作品として
「ムダヅモ無き改革」が登場するが、
これはもろに外交問題を
麻雀で解決するという話である。
作者である片山まさゆき氏は
「ギャンブラー自己中心派」など
麻雀コミックで名をはせたが、
その片山氏が政治コミックを描いたと
いうことで当時は話題となったものである。
片山氏のファンはもちろん、
同氏の「ヘタウマ」的な画風が
好きな人にはおすすめである。
また、「麻雀」+「政治」の流れを組む
作品に興味を持っている人には、
その原点を垣間見られる作品の
一つとして読んでみるのもいいだろう。
1980年代半ばは、日本でいうと
「バブル最盛期~終末期」に当たる
時期で、
この時代に興味を持っている人も
楽しめると思う。
ちょうど当時と同じような
経済環境にある、ということも
いわれている現在。
国際環境の変化や日本国内での
政治の考え方、その差異を作品を
通して触れることができるのでは。
ソ連→ロシア、もしくは中国あたり、
国際はぐれ軍団→北朝鮮とか……
に脳内変換してみるとまた、
自分で「ウオッカタイム2」を作り出す
ことも可能ではないだろうか
(本当は片山氏に描いてもらうのが
一番なのだが……)。