タイトル | ヒストリエ |
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原作・漫画 | 岩明均 |
出版社 | 講談社 |
アレクサンドロス大王に仕えた書記官・エウメネス。
その波乱に満ちた生涯とアレクサンドロスの覇業。
謎の多い古代ギリシアの歴史が、
史実資料を基にして
作者独自の推理を加えて現代によみがえる
歴史スペクタクル!
ヒストリエ のあらすじ紹介
史実によれば、
プラトン・ソクラテスと並ぶ
『万学の祖』アリストテレスは
スパイ容疑でペルシアから追われ、
その後マケドニアで
アレクサンドロスの家庭教師となったとされる。
そのアリストテレスが逃亡中、
バルバロイ(蛮族)にも関わらず
ギリシア人顔負けの知識と洞察力を見せる
不思議な青年と出会う。
その名はエウメネス。
折りしもアテネの殖民都市・カルディアは
新進の軍事国家・マケドニア軍に攻められている最中。
その陣立てや食糧の位置を見たエウメネスは、
マケドニア軍はカルディアを攻め落とそうとしておらず、
カルディアがアテネから離反するのを待っていると看破。
マケドニア軍の戦略方針までをも見抜いてみせる。
この、あまりに聡明すぎる青年・エウメネスは
実は遊牧民族・スキタイ人である。
にも関わらず数奇な運命により
ギリシア人として育てられた過去があった・・・
ヒストリエ のネタバレと結末(最終回)は?
エウメネスの活躍は、
マケドニア国王フィリッポスに見出され
仕官を勧められることとなります。
実はフィリッポスは身分を隠して
カルディアを偵察に来ていたのです。
もともと活字中毒だったエウメネス。
図書館勤務を命じられ嬉々として役目をこなします・・・が、
他の書記官が言われていないレベルの
乗馬特訓を命じられたりします。
他にもオモチャの作製を通じた職人たちとの面通し。
古参の将軍との同居、などなど・・・
フィリッポス二世が何を期待しているか
読めない日々が続きます。
その一方でスポットが当たる人物が
かのアレクサンドロス。
純粋で向上心が強く、
周囲を家臣扱いせず
庶民であっても礼をもって接する
そんな理想の王子。
しかし彼はその実、
誰よりも深い闇を抱える人物として描かれます。
母・オリュンピアスは
極度に自己愛が強い野心家。
弟を溺愛する一方で、
夫であるフィリッポスに対し
踏み台とみなすような発言も。
そんな彼女は実子アレクサンドロスに、
ある事件のトラウマを利用して
彼を二重人格に追い込んでいくのです。
王とは孤独なものであるから、
心の中に何でも相談できる親友を作る――
こうして作られた人格・ヘファイティスティオンは
主人格・アレクサンドロスとは対照的に
粗暴で皮肉屋、傲慢な性格を持ちます。
光と闇を抱える王子・アレクサンドロス。
エウメネスが彼とどう関わっていくのか――
それが今後の見所となるでしょう。
ヒストリエ の読んでみた感想・評価
かの有名な『寄生獣』の作者さま、
ということもあって戦闘シーンの凄まじさが圧巻です。
遊牧民族スキタイ人の
冗談みたいな強さは必見!
跳んで跳んで
敵の体を盾にして
剣で斬り刻んで!
ギリシア殖民都市の
穏やかな日常描写が続いた後だけに
その後の急展開は息を呑むばかり。
そんな中
『同胞』であるはずのギリシア人の死を忘れ
スキタイ人の強さに『見とれてしまう』
少年エウメネス。
この独白こそが
後の展開の暗示となっているのが
非常によくできた対比でした。
個人の闘いだけでなく
国VS国の戦争の描写も多くなります。
エウメネスは書記官ということもあり、
同時進行する他戦線の様子も
記録という形で出てくるのが面白い。
これによって従来の戦争ものとは違う、
眼前の戦闘だけでない
立体的な戦略を感じることができるのです。
当時の新戦術『斜線陣』についての
長所・短所の説明もわかりやすいです。
こうした親切な描写のおかげで
教科書では単調にしか思えなかった古代が
活きたパズルのように
面白く思えました。
こんな方におすすめな作品!必見
古代ギリシア史に興味のある人はもちろん必見!
・・・なのですが
新米書記官としての立場から
指揮権がない状態で戦局を動かすシーンは
推理もので見たような面白さがあります。
気絶した古参の将軍の命令、に偽装して
本来ならエウメネスより立場が上の
他の将軍たちを動かしていくシーンとか。
戦場の描写も、
ただ奇策を出して大逆転!
・・・みたいなものではなく、
地形
敵襲のあった地点、推測できる敵の狙い
などなどを一覧にした上で、
エウメネスが考えて動く・・・
という展開です。
そのために
「この劣勢をどうやって挽回するんだろう?」と
読者も一緒に
作戦を考えさせられてしまうのが
この作品の醍醐味でしょう。
戦闘シーンのみならず
各国の指導者の性質や
官僚たちの派閥までもが
日常シーンの中に
混ぜ込む形で描写されています。
そのため
簡潔な説明でわかりやすいと同時に
複雑な奥深い展開も楽しめるのです。
このような
戦後処理までをも含めた、
局地戦に留まらない国家運営の妙味。
この『難事件』は
数々の謎に挑戦してきた
推理ファンにこそ相応しいのかもしれません。