タイトル | たんぽぽの綿毛 |
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原作・漫画 | 小沢真理 |
出版社 | 小学館 |
保育園児の春生、高校生の冬馬、
そして社会人の裕二。
男だけ三人で家庭を営む三人には
どこの家庭にも負けない絆があり……。
大切な人を亡くしてしまった悲しみや
寂しさを抱えつつも前を向く姿と、
温和で優しい三人のやり取りが楽しい、
定番的でありつつ斬新な
ハートフル家庭漫画です。
たんぽぽの綿毛のあらすじ紹介
裕二、冬馬、春生は、
家族の不幸もあり、男だけの
所帯で生活を営んでいました。
もっとも、年の離れた末子で、
しかも母親似ということで、
裕二も冬馬も春生を溺愛、
春生がゲームのカードが欲しいと
せがんだならば、あらゆる手を使って
満足させるほどの熱意がありました。
もっとも、いくら家族からの愛が
たっぷり含まれたプレゼントとは言え、
既製品とはどうしても違い、
そのことで意地悪もされましたが、
春生には嫌なことがあっても
頑張れる「ワケ」があったのでした。
たんぽぽの綿毛のネタバレと今後の展開は?
クリスマス三日前。
多くの人が年末の大イベントを控えて
気分が浮き立つこの時期に、
男子高校生の冬馬は焦っていました。
宝石のディーラーをしている父が、
展示が延長したという理由で、
クリスマスイブに帰って来れず、
そのため冬馬は、春生の送り迎えと
クリスマスプレゼントゲットを
指示されたというわけです。
しかし冬馬にも前々から言っていた、
ライブをやるという予定があり、
そのために断ると、父の裕二は、
ライブに春生も連れていけと、
あくまで世話をすべしとの態度を
崩してはくれません。
亡くなった母親の言葉通り、
「いいお兄ちゃん」を頑張って
続けてきた冬馬ですが、
今回のタイトなスケジュールには
かなり参っていました。
しかし、クリスマスイブ当日は、
春生の友達りる葉ちゃんの母親が、
面倒を見てくれるということで、
うまく話がつき、冬馬は、
ライブに打ち上げにと
青春を謳歌することに。
しかしうまくいった演奏の後、
冬馬は春生へのプレゼントを、
ゲットしていないことに気付きます。
しかもそれはお金を出せば手に入る
おもちゃではなくゲームの景品で、
冬馬は大苦戦して、とうとう、
ゲームを辞めて打ち上げへと
向かう決意を固めますが、
そこに春生から電話が入ったのでした。
たんぽぽの綿毛の読んでみた感想・評価
オーソドックスな家族もので、
非常に落ち着いた内容なのに、
どこか各人の距離感が斬新で、
メゲない強さと安定感を
強く見て取ることができました。
本作のポイントは春生と冬馬、
そして父である裕二の
珍しい関係性にあります。
父親だけで兄弟の面倒を
見ていく家庭となれば、結構、
ブレーキ役の母親がいない分、
父親の意向が通りやすく、
パワー系の関係になりがちですが、
冒頭から裕二は無茶を言うんですね。
冬馬もサボりたいわけではなく、
前々からライブの予定があるとは
話してあるのですが、
にも関わらず、
「春生をライブに連れていけ」と
無茶な提案をするんですね。
しかもそうしたズレた対応が、
春生に負担をかけてでも、
面倒をしたくないのではなく、
むしろ、春生に最高の
クリスマスを過ごして欲しいために、
提案しているのですから驚きです。
しかもそんな無茶ブリをした
裕二にしても心配で早く
帰ってきたりと、
手を尽くすことに労力を惜しまず、
だからこそズレが生じて
ユニークな距離感になるのかも知れません。
とは言えこの三人の仲はとても良く、
春生もちょっと大人しいながらも
優しい良い子ですので、
ある意味安心して読み進められ、
じっくりとした充実感を
味わうことができましたね。
どうしても展開がハードなものに
なってしまいがちな完全創作系の
家族ものとしては珍しいですが、
その日常感を活かし切れるほど、
構成が巧みですので、
ストレスなく読めたのも嬉しかったです。
たんぽぽの綿毛はこんな方におすすめな作品!必見
ノンフィクションのエッセイ系でも
完全フィクション系の作品でも、
大変な生活環境を描いた作品は多く、
その分独自色のある作品を
見つけ出すのは難しい現状があります。
それぞれがかけがえのない家族だと
正論を言ってしまえばそれまでですが、
読者側としては「これだ」と言える、
他作品との違いがあってこそ
新鮮な驚きが得られるのも
また事実ではないかと思います。
本作「たんぽぽの綿毛」も、
母親が亡くなった完全な
「男所帯」の中で、皆が
奮闘していくという、
割と定番な作品なのですが、
その内容は斬新です。
と、言いますのも、個人で
宝石ディーラーをしている、
貫禄たっぷりの父親が、
末子の春生に対しては、
優しいと言うかかなり甘いので、
男所帯っぽくないんですね。
それも無理して甘やかしている、
機嫌を取っている感じではなく、
ごく自然に溺愛する感じで、
そうした独特の距離感が、
他にはない優しい空気と、
安心感を生み出しています。
奇をてらい過ぎていない、
リアル感ある家庭ものですが、
一方で皆が「役割」に沿い、
しかもキツさを生んでいない、
独特の柔らかい雰囲気を
楽しみたい方にオススメです。