タイトル | ホウキとオートバイ |
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原作・漫画 | わたべ淳 |
出版社 | ビーグリー |
様々な時代の、そして様々な国の
バイク乗りたちは、ホウキに乗った
魔女を目撃します。
時にレースを楽しみ、時に旅に
同行しさえするほどバイクを好み、
そして驚くほど巧みに空を飛ぶ
彼女の正体とは?
バイクにこだわる理由とは……?
バイクの機械感と歴史や
ファンタジーが混ざり合った、
独特の雰囲気を持った傑作です。
ホウキとオートバイのあらすじ紹介
第二次世界大戦中、ソ連軍の
猛攻を受けるドイツ軍戦車部隊。
その中にはヘルメットに赤い星をつけた男、
ハインツがいました。
元々レーサーで、バイクの扱いには
定評のあった彼は伝令役を買って出ます。
トラックに積んでおいたオートバイを
駆って、仲間の歓声を受けながら
部隊を離れていくハインツ。
かつて活躍していたマン島でのレースに
思いを巡らせながら走っている彼の前に、
突然見知らぬ飛行物体が現れます。
しかしそれは敵機ではなくホウキに
乗った魔女でした。
黒髪で若い娘にも見える彼女は、
自らのことを死神と呼んだハインツたちを
非難します。
しかし余裕のなくなっていたハインツは
彼女を迷わず銃撃、撃たれたように
見えた魔女は姿を消し、ハインツはやがて、
敵機に追い回されることに……
(「赤い星の伝説」)。
ホウキとオートバイのネタバレと今後の展開は?
ナチス・ドイツが台頭し、ヨーロッパに
暗い影を落としつつあった頃、ある村には
サラという魔女が住んでいました。
サラは時々村の少年たちと峠で
レースをして遊んでいました。
彼らは自力でチューンナップしたバイクに、
サラはホウキに乗って勝負をするのです。
しかし、誰もサラには勝てません。
空を飛んでいるから、ではなく、
「峠の柵をホウキで掃く」ように
するほどの巧みなコーナリングを崩せず、
少年たちは連敗していました。
昔からの慣習にも関わらず、
少年たちとサラの仲は良かったのですが、
どうしても心理的に壁がありました。
とは言え遊び友達であることには
変わりがなく、今度は修理役のロニーが
サラに挑むことになりました。
実家のミシンを整えるように完璧な
セッティングをして健闘した
ロニーでしたが、ちょっとしたミスで
マシンが大破してしまいます。
レース自体にはさほど落胆は
しないものの、ナチスの戦闘機に
憤っているロニーに対し、サラは
意外な「プレゼント」を
贈るのでした(「最後の魔女の物語」)。
ホウキとオートバイの読んでみた感想・評価
斬新な設定ではありますが、非常に細やか
かつ丁寧に設定が積み重ねれられていて、
しかも過度にベタベタしたところがない
爽やかさがあります。
恐らく詳しい人ならば一目で分かるほど
バイクのディテールには気を遣っている
はずではあるものの、マシンスペックの
羅列的な、悪い意味でオタク的な
雰囲気にはならず、同時に
「魔女の宅急便」などの
過去の名作などへのリスペクトを感じる
一方で、パロディなどを用いて空気感を
白けさせることもなく、絶妙な
バランスの良さを感じます。
そうした丁寧な仕事を蓄積させて
いるからこそ魔女の飛行にもバイクの
疾走にも独特の心地良さがあり、
しっかりと理由付けがされた登場人物の
行動も明快で見ていて爽やかでした。
私はバイクのことはまったく
分かりませんが、それでも風を切る
気持ちよさや機械が振動する心地よさを
味わうことができました。
やや異色ですが、機械好きも
ファンタジー好きも
大満足できるのではないかと思います。
個人的な希望としては、アニメーションで
実際に動いているのを
見てみたい一作ですね。
ホウキとオートバイはこんな方におすすめな作品!必見
世の中の科学がどんどん進歩し、
もはやSFの領域にまで達しようかと
いう時代ではありますが、
ファンタジーと科学が融合して
新たな世界観を作り上げるという
設定は非常に隆盛を極めています。
宮崎 駿監督の「天空の城ラピュタ」や
「魔女の宅急便」などの極めて
優れた作品でも用いられた形式では
ありますが、だからこそ新たに
作品を作り上げるのは
簡単なことではありません。
しかし、本作「ホウキとオートバイ」は、
様々な時代、様々な理由から
バイクを駆る男たちの前に美しくも
颯爽とした魔女が現れるという
シンプルな構図ながら、各所各時代の
空気感から、どこかミステリアスでは
あるものの明るくサッパリとした
ホウキ乗りの魔女の描写まで
非常にナチュラルかつ秀逸で、
過去に生み出された名作にも
どこか共通した、とても大切な
何かまでをも宿しているように
感じました。
また、ゴテゴテとはしていない
ながらも実に美しく、スタイル的にも
セクシーである魔女とのやり取りは
実に面白く、恋愛をし始めた時の
甘酸っぱさと、ライバルと向かい合う
ワクワク感が同居しており、
ファンタジー好きな方にはもちろん、
もっと広く青春ものが好きだという方にも
通用するだけの完成度があります。
また、バイク専門誌に連載されていた
というやや異色な経歴を持って
いるからか、オートバイのディテールも
実に細やかで、作中の演出的要素
以外では、とても丁寧に機体を
扱っている感じがするのも、
非常に評価できるポイントで
あるのではないでしょうか。