タイトル | ポーの一族 |
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原作・漫画 | 萩尾望都 |
出版社 | 小学館 |
バラと人の血を栄養とし、
長い時を生きるバンパネラたち。
平和的で紳士的な彼らはしかし、
人間たちの迫害の記憶に
常に苛まれており……。
耽美にして繊細、そして
深く壮大な物語が
長きにわたって繰り広げられる、
今なお非常に高い人気を誇る、
吸血鬼漫画の大傑作です。
ポーの一族のあらすじ紹介
普通の人々とは異なる習性を持つ、
バンパネラたちが集うポーの村。
ポーツネル一家はその村を出て
街での新生活を試みることに。
歴史の浅い市街で外来者も多い、
彼らにとってベストな土地を選び、
居を構えることになりました。
しかしまだ子供の肉体を持つ
エドガーとメリーベルがいるために
一つの場所には長居はできず、
また周りに露見されやすいなど
いくつかの難点がありました。
その中でもエドガーは
同じ学校に通うアランと
衝突しながらも仲良くなりますが、
思わぬところから彼らの正体は
周りに知られてしまうのでした。
(「ポーの一族」)
ポーの一族のネタバレと今後の展開は?
グレンスミス男爵は鹿撃ち中に、
森で霧に包まれ、狩り仲間と
はぐれてしまいます。
しかし物音に反応して
鹿だと思って撃ってみると
弾が当たったのは女の子でした。
グレンスミスは狼狽して
自分の非をわびますが、
駆けつけてきた少年に、
銃床で殴られ射殺されそうに
なってしまいます。
幸い他の村人が割って入り、
命は助かりましたが、
その少年の目は凍ったように鋭く、
また館に案内されたことで
逃げ出すこともできなくなりました。
グレンスミスは少年を見つけ
改めて謝罪をし言伝を頼みますが、
少年の激怒はおさまらず、
グレンスミスの命も撃たれた少女の
容態に左右されるという
恐るべき宣言をされてしまいます。
幸いその少女、メリーベルの容態は
すぐに回復し、グレンスミスも
家に戻れることになりました。
しかし夜、彼が寝ている床に、
少年が近付いてきました。
彼は村人たちが血を吸い長い時を生きる
バンパネラだという真実を明かして、
弱ったメリーベルのために
グレンスミスの血を貰ったのでした。
そして村を出て仲間のもとに戻った
グレンスミスでしたが、
不思議な体験を信じて貰えるとは思わず、
書き留めるだけにとどめたのでした。
(「ポーの村」)
ポーの一族の読んでみた感想・評価
とても王道な物語で、
深く考えさせられる部分も
多く感じましたね。
様々な吸血鬼ものの中でも、
設定が抜群にいいですね。
人から逃れて暮らしている
ポーの村の一族の中で、
都会に居場所を求めた一家。
エドガーとメリーベルの兄妹の絆も
とても献身的で美しいものがあり、
彼らの本質をすぐに理解できます。
ただその一方で人間とは違う、
様々な特徴を持つ吸血鬼たちは、
やはり恐怖と憎悪の対象でしかなく、
どうして人々が恐れるのかまでを
人間の目を通じて描いている
丁寧さも良かったです。
まだ人種差別が良くないといった
風潮も希薄な中では、いかに
エドガーたちが人間に近付き、
人に「偽装」しようとも
それが理解につながらないことも
悲しいながらも理解できました。
また本作のポーの一族は、
少なくとも近年においては
無駄に力を振るうことはない代わりに、
人の世界に溶け込むだけの
能力をたくさん持っています。
そのため、現代でも吸血鬼は
滅んでしまったのではなくて、
もしかしたら、と作品以外でも
想像力を働かせられるような
演出がなされているのも
嬉しいところでした。
ポーの一族はこんな方におすすめな作品!必見
人の血を吸う存在が多くいる関係からか、
「吸血鬼」は多く語られてきましたが、
かの有名な「ヴァンパイア」以降、
より悲劇的で耽美な性格をもって
扱われるようになってきました。
そこからさらに時が流れた現在では、
より面白おかしい感じのコメディや
頼りになる隣人としての吸血鬼など、
極めて多くの物語が描かれています。
少なくとも漫画の世界において、
吸血鬼が一つのジャンルに成長した、
そのきっかけになったのが本作でしょう。
ポーの村に住み、人の目から逃れて
ひっそりと長い時を過ごす、
紳士的で美しい「吸血鬼」の姿は、
発表から数十年の時を経ても
まったく色褪せることはありません。
彼らの悲劇的で宿命的な生き方、
美しく完成されているものの、
人間との「共存」が許されぬ世界、
そのどれをとっても王道的であり、
本作という巨大な存在がいかに
後世に影響をもたらしたかは瞭然です。
最近になって新作が描かれると
掲載された雑誌は
たちまち売り切れてしまったという、
近年ではほとんど聞かない出来事も
本作の素晴らしさから考えれば
必然的なものだとも言えます。
「彼ら」の目から見た人間の怖さと、
人の目から「彼ら」を見た時の
覆い難い違和感という対比や、
激動を続ける歴史の流れなど
様々な視点から描かれてもいて、
偏りが生じることもありません。
今では古典と呼ばれる一作ですが、
分量や短編話集という構成からも
とても読みやすく、
種族的な宿命と同様に
時代を超える作品を読みたい方には
まさに最適の一作だと思います。