タイトル | 凍りの掌 シベリア抑留記 |
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原作・漫画 | おざわゆき |
出版社 | 講談社 |
学生だった小澤は、召集令状を受け、
満州に配属されるものの、
そこでソ連の侵攻を受けて、
捕虜としてシベリアで
過酷な労働をすることになり……、
おざわまき先生が父からの
聞き書きを形にしてみせた、
恐るべきリアリティが胸に刺さる、
歴史を知る上でも極めて有意義な
読み継がれるべき一作です。
凍りの掌 シベリア抑留記のあらすじ紹介
大学の予科に通う学徒、小澤昌一。
しかし学徒出陣が行われる中、
学問よりも勤労動員の方に
重点を置かれるようになっていきます。
やがて小澤にも召集令状が来て、
国内での短い訓練の後、
満州へと配属になりますが、
かつて精強を誇った関東軍も、
まったくその力を失っていました。
やがて終戦直前に、突如として
ソ連軍が攻めてきますが、
小澤たちは抵抗もできないままに、
停戦することとなり、そして
ソ連軍の捕虜になります。
帰国できるかもという希望を
束の間抱く抑留者たちですが、
彼らに待っていたのとは、
言葉にはし難いほどの
過酷かつ非人道的な
収容所生活でした。
凍りの掌 シベリア抑留記のネタバレと今後の展開は?
東洋大学の予科に通っていた小澤昌一。
読書好きの青年でしたが、
戦争の激化につれて勤労動員に出され、
戦火に追われるようになっていきます。
そんな中、学徒であり兵役乙種合格である
小澤にも臨時の召集令状が来ます。
加古川の方の部隊で訓練を積む形に
なった小澤ですが、すぐに外地へ
出征ということになりました。
そこは北満州、ソ連との国境でしたが、
北の守りを担当するべき
「最強」関東軍は、既に他への動員で、
完全にボロボロになっており、
小澤の部隊には航空機もなく、兵舎すら
糧秣庫になっている有様でした。
やがてやってきた古参兵のいびりに
耐えつつ陣地作りなどを
続けていた小澤たちでしたが、
突如ソ連軍が攻めてきて、
部隊は被害を受け、さらには
停戦を命じられます。
その後彼らはソ連軍の捕虜になりますが
待っていたのは恐るべきほどの
過酷な労働の日々でした。
最初に到着したキヴダ収容所は
極寒のシベリアにあって
屋根すらなく、しかも当初は、
防寒着すらない状況で
強制労働を強いられ続けたのです。
その過酷な寒さと飢えのために、
抑留者たちはバタバタと倒れ、
全体の半数が死亡するという、
過酷極まる状況で、
小澤もまた病に倒れてしまうのでした。
凍りの掌 シベリア抑留記の読んでみた感想・評価
現実の、ほとんど非現実的な辛さを
描き切るという難題を達成した
非常に有意義な名作だと思います。
戦争や軍事をテーマにした作品は
今も昔も人気でありますが、
本作はお父上の体験を聞き書いた、
ノンフィクション的な一作です。
だからこそ元々学徒であり、
まったく兵隊には向かなそうな
小澤さんが終戦前に招集されたり、
最強とされた関東軍が
既に動員のためにボロボロに
なっているなどの描写があります。
その絶望的な状況は、創作で良くある
一発逆転などは決して望めず、
勝てない戦争だと分かるのですが、
本当の絶望は終戦後、
ソ連軍に囚われてから襲いかかってきます。
恐ろしく粗末な食事と待遇、
そして理不尽な重労働の数々と、
とてつもない状況が感情を揺らします。
フィクションの作品であったとしても、
「非常識過ぎる」とボツになりそうな
過酷な捕虜への待遇、虐待が、
現実に起こった話と言うのですから、
読んでいて耐えられなくなりそうでした。
しかしこの「歴史」を知らないことには、
日本人の「戦後」を真に理解することも
また難しいだけに、
読み進めることは本当に有意義で、
今までの自分にはない新たな見方が
示されたような気がしました。
抑留者のその後も含めて考えると
辛い話だけでは済まない
難しい部分のある題材ですが、
それだけに目を背けず、
読み進めることは重要だと思いました。
凍りの掌 シベリア抑留記はこんな方におすすめな作品!必見
七十年以上も前に起こった太平洋戦争は、
多くの人にとって恐るべき災厄でしたが、
一部の日本の人々にとっては、
昭和二十年八月十五日に全てが
終わってくれたわけではなく、
その後何年にもわたっての捕虜生活を、
延々と強いられた人たちもいました。
終戦後、ソ連に囚われた抑留者は
極寒のシベリアで、それこそ
筆舌に尽くしがたい思いをしましたが、
これまでその辛さを描写した作品は
決して多くはありませんでした。
しかし、抑留被害者の父親に
直接話を聞いたという本作は、
まさに迫りくるような筆力で、
地獄のシベリア抑留の実態を
赤裸々に描いています。
食料の欠乏と寒さ、
そして病気の蔓延と、
あらゆる危機が迫る中で、
非人道的なほどに過酷な
作業に従事させる彼らの姿は
本当に心に刺さるものがあります。
もちろん読後感も辛いですが、
それはこの「事件」の恐ろしさを
しっかりと描写できているからで、
戦後に一体何が起こったのかを
「肉声」に近い形で知りたい方には
極めて適した一作だと思います。
今や非道なことをしたソ連もなく、
戦争の記憶よりも先に、
忘れられそうな雰囲気もありますが、
そうした現在だからこそ、
改めて読まれるべき名作と言えます。