タイトル | 月と指先の間 |
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原作・漫画 | 稚野鳥子 |
出版社 | 講談社 |
御堂 アンは大ベテラン少女漫画家。
三十年以上にわたって一線で
仕事を続けてきた彼女が、
あらゆる側面で「プロ」の
存在感を示しながら、
うまくいかない現実とも戦う、
斬新な形の「業界漫画」。
仕事として漫画を描く上の、
様々なノウハウなどが、
実務面の部分も併せて描かれており、
特に漫画を描く側の方にとって、
非常に参考になる一作です。
月と指先の間のあらすじ紹介
漫画家として三十年以上のキャリアを持ち、
五十代半ばにして少女のような若々しさの
御堂 アン先生。
アシスタントとの仲も良く、実務力にも
極めて長けており、他の漫画家からも
尊敬されていました。
とは言え、数十年も第一線で、
しかもアナログで原稿を描き、
徹夜明けでもネームを切るという、
若いアシスタント以上の仕事を
し続けているため、体には
かなりガタが来ており、
仕事的にも少女漫画が
大ヒットする時代ではないため、
なかなか思い通りにはいきません。
紹介されたエージェントとの
作品映像化の話もすぐに決まらず、
出版された本の版型についても、
意向を通すのは簡単ではなく、
曇り空のような現実がありました。
月と指先の間のネタバレと今後の展開は?
漫画家として、月に数本の仕事をこなす、
御堂 アンはキャリア三十年以上の
大ベテラン漫画家。
とても若く活き活きとして見えるものの、
もう五十五歳であり、肉体にも
色々とガタがきていますが、
仕事の正確さは変わりません。
さらに、アシスタントにも丁重で、
経理までアン先生自ら担当して
充実した給料を払うだけでなく、
たまにはアニソンカラオケで
盛り上がったりもします。
また、仲間の祝い事で
スピーチを述べたり、
原稿料に関する知識を述べたりして、
その思いやりを発揮します。
だからこそアン先生は、
キャリアのある漫画家仲間からも
一目置かれるだけの実力もありますが、
ボロボロの状態でネームを切るのはきつく、
徹夜のアシスタントをしのぐほどの
作業量をこなしてもいました。
しかし、そんな実力も実務力もある
アン先生であっても、今以上のヒットは
なかなか難しく、
紹介して貰ったエージェントからも、
描いた作品を絶賛されつつも、
映像化という「仕事」に関しては、
曖昧な返事しか貰えませんでした。
そんな時、苦手意識を持っていた
男性編集長と二人きりになり、
初めてみた仕事ぶりに圧倒されたと
賞賛の言葉を貰ったアン先生は、
思わず彼を食事に誘うのでした。
月と指先の間の読んでみた感想・評価
思わず拍手を送りたくなるような、
熱いプロとしての意識の高さと、
瑞々しい感情に溢れた一作です。
主人公の御堂 アン先生は、
もう五十代半ばで、
三十年以上のキャリアを持つ、
業界でも大ベテランと呼べる
一流の漫画家ですが、
その容姿は美魔女どころか
少女と見まごうほど若々しく、
お祝いの席で見せる笑顔は
本当に相手のことを思っている
誠実さからくる美しさがありますが、
一度原稿に向かう段階になれば、
熱く格好良く凛々しく、
それでいて自分の今とは離れた、
少女の微妙で繊細な感情を、
形にしてしまうのですから、
読んでいて心底応援したくなりました。
執筆態度はもちろん、ネタ出しも
原稿料に関することも、
出版される本の版型に至るまで
徹底的にこだわる姿は
圧倒的にプロですし、
それでいて柔らかで若い
ルックスと雰囲気を
維持しているのがまた凄いです。
そして、そこまで万全の
タフさを発揮していながら、
アシスタントさんへの経理も自力でやり、
給料をケチっていないのも素晴らしいですね。
作品全体の盛り上がりもありますし、
ノウハウとプロ意識と様々な知識が
ギュッと詰め込まれた「業界漫画」が、
絶妙なバランスを保ちながら、
世に出た嬉しさを、
本作からは感じることができました。
月と指先の間はこんな方におすすめな作品!必見
スポーツに音楽、そして娯楽全般、
「プロ」と呼ばれる業界は多いですが、
そうした仕事の多くは、社会一般とは違い、
「なるのも大変だが続けるのはもっと大変」
という特徴があります。
特に人気が高い漫画の世界では、
「万年平社員」、「万年係長」といった
「役割」はなく、基準に満たなければ、
たとえかつての人気作家でも
早々に切られてしまう厳しい世界です。
本作は、その厳しい漫画界において、
三十年以上にわたり、少女漫画の
第一線で活躍するプロを主人公にした
珍しい「業界漫画」です。
もう三十年以上も同じような間隔で
ハードな仕事をこなしてきたため、
急な成長は期待できず、
ズバ抜けて若く見えるものの、
もう五十代も半ばとあって、
浮いた話もなかなかなく、
成長物語やロマンスとしては、
話が成立しにくい部分はありますが、
常にいい話を作るための、
作品の仕上げ方や気持ちの上げ方、
原稿料に関する本音とポイントなど、
むしろ漫画を描く側の方にとって
極めて参考になる「虎の巻」が、
惜しげもなく展開されているのは
プロや志望者にとっても
非常にありがたいところでしょうし、
まるで少女のような可愛らしさを持つ、
主人公の御堂 アン先生が、
原稿に向かう時だけは、
厳しい表情と鋭い目つきで、
自分のありったけを注ぐ姿は、
本当に熱く凛々しく、
まさしくプロの鑑であり、
「背中で語る」領域にすら
達していると思いました。
単に漫画を描いてみたいだけでなく、
プロとして一年、いや一作でも長く
生き残りたい方には必見だと思います。