タイトル | 櫻狩り |
---|---|
原作・漫画 | 渡瀬悠宇 |
出版社 | 小学館 |
時は大正九年(1920年)――
世の中は第一次大戦の恐慌のあおりをうけ
荒廃しきっていた。
書生になることを決意、上京した
正崇は、身を寄せる予定だった家が
立ち退きにあって困っていた。
そこで偶然知り合った華族の屋敷に
住まわせてもらうことになるのだが・・・
これが大きな運命の分かれ道だった!
櫻狩りのあらすじ紹介
田神正崇17歳は、東京で働きながら
学ぶため、書生としておいてもらう
家に向かっていた。
正崇が婦人に道を聞こうとしたとき
一台の車が猛スピードで走ってきて
二人は引かれそうになった。
正崇が車に文句を言うと、中の男が
婦人へのお詫びと、何かあれば連絡をと
名刺を渡し去って行った。
その名刺には、斎木蒼磨(そうま)と
記してあった。
婦人が言うには、斎木蒼磨は
公爵家の若様ということだった。
やっとのことで正崇は書生先の家に
たどり着いたが、第一次大戦の恐慌の
あおりをうけ、家はもぬけの殻になっていた。
行き先を失ってしまった正崇は――!?
櫻狩りのネタバレと今後の展開は?
途方に暮れてしまった正崇――
その時、ふと正崇は車の男にもらった
名刺のことを思い出し
その男の屋敷に行くことにした。
屋敷に着いた正崇は
中に入れてもらおうと
大声で叫んだ。
「もし!ごめんくださーい!」
だが、中からは何の反応もない。
仕方ないので、正崇は塀をよじ登って
勝手に屋敷の中に入ってしまった。
すると、目の前に大きな蔵があった。
正崇が蔵をじっと見ていると、
屋敷の者が現れた。
そして鋭い目つきで
「お前は泥棒か!交番に突き出してやる!」
と言い出した。
焦った正崇はその場から逃げ出した!
広い庭を逃げ回っているうちに、
正崇は大きな桜の木のところに出た。
そこには一人の若い男が立っていた。
「もしかしてさっきの車の中の男・・・?」
そう思った正崇は心の底から驚いた。
何故なら、その男がこの世のものとは
思えないほど美しかったからだ――
しかし見とれていたのもつかの間、
正崇は怪しい者として
取り押さえられてしまった。
正崇は必死に訴える!
「僕をここの家においてください!」
すると美しいその男は――!?
櫻狩りの読んでみた感想・評価
華族のお屋敷という
閉ざされた世界の中で起こる愛憎劇。
蒼磨に関係する人々の狂気じみた愛には
最初は違和感を覚えながらも
じわじわとのめりこんでいきました。
美しすぎるがゆえに堕ちてしまった
蒼磨と、無垢で純粋な正崇の出会いは
運命なのか悲劇なのかわかりませんが・・・
蒼磨が正崇に対する態度をみると、
突き放したり迫ったり一貫性がありません。
それは正崇を汚したくないという気持ちと
肉欲のせめぎ合い・・・
また、自我の苦しみや悔恨の表れのように
思えて、蒼磨を哀れにさえ感じます。
作者はこの時代に生きる人たちの心を
伝えたい、としています。
男性同士の愛の表現があるので、
そのような作品に慣れていない自分は
面白く読めるかな?と不安でした。
でも読んでいくと
性別がどうということより・・・
この愛情は怖くて異常だ、と頭では
分かりつつも、他人の秘密をのぞき見した
時のような背徳感でゾクゾクしてしまう。
それと同時に、人間の弱さや心のもろさを
強烈に感じ、今自分が普通に生きているのは
奇跡なのだ、と改めて思いました。
櫻狩りはこんな方におすすめな作品!必見
最初に書いておきますが、この作品は
男性同士の性描写が多数あります。
ちょっとそういうマンガは・・・
という方も、勿論BL好きの方も
この作品は性別を超えた哀しい愛情が
表現されていて面白いと思います。
この作品を読むと、愛情と死は
とても近くに存在していると感じます。
華族で大きなお屋敷に住んでいる
眉目秀麗な若様というと、きらびやかな
王子様のイメージですが・・・
この作品の蒼磨はただならぬ陰を
背負っているので、周りもそれに
引きずられるように闇に落ちていきます。
その闇の原因が自分自身にある、
ということが蒼磨の哀しみであり
抱えている闇が深いことの所以です。
そして純粋で無垢だった正崇もまた
蒼磨の闇に巻き込まれていきます。
そこに憎しみがあったのかどうか・・・
汚したい、闇に落としたいと思ったのか・・・
蒼磨の気持ちは一言では
説明できないですが、とてつもない哀しみは
伝わってきてしまうのです。
泣いているのは正崇の方なのに
本当に不思議な感覚でした。
愛憎劇としても勿論、ミステリーとしても
人間のこころを深く掘り下げている作品
としても、読みごたえのある作品です。