タイトル | 江戸前の旬~旬と大吾~ |
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原作・漫画 | 九十九森 さとう輝 |
出版社 | 日本文芸社 |
銀座にある寿司屋『柳寿司』の
三代目・柳葉旬と有名店である
『嘉志寿司』の跡取り
息子・吉沢大吾、若き二人が
互いに持つライバル心から激しく対立し、
幾度かに及ぶ寿司勝負や様々な人との
出会いを通じて、寿司職人として
大切なものを学び成長していく
姿を描いた作品。
江戸前の旬~旬と大吾~のあらすじ紹介
高校卒業間近の柳葉旬は
父・鱒之助の下で一人前の寿司職人を
目指して修行中の身です。
鱒之助と旬のいる『柳寿司』は
大衆向けですが、一流店が居並ぶ銀座に
店を構えていました。
その銀座で名を馳せている『嘉志寿司』の
跡取り息子・吉沢大吾は旬と
同じ高校に通っています。
大吾は旬の顔を見るたびに
『柳寿司』を三流店だと蔑みます。
卒業を迎える旬は、大吾の企みにより
教師らへの謝恩の気持ちを示す場で
寿司対決をすることになります。
かんぴょう巻で勝負する約束を
交わしていたのですが、当日に
大吾が出してきたのは鉄火巻でした。
大吾は旬に恥をかかせようと
罠を仕掛けたのです。
しかし、結果は海苔に細心の注意を
払った旬のかんぴょう巻が善戦し、
両者引き分けで終わりました。
雪辱に燃える大吾に、真鯛を使った
寿司勝負を旬は挑まれます。
高級素材である真鯛は自分には
入手しがたいものと認識している旬は、
真鯛の子を使うことにしました。
著名な陶芸家・深大寺が審査をかってでた
両者再戦の場は、超一流店らしく
高級真鯛の握りを差し出す大吾の
圧勝かと思われました。
ですが、素材で絶対的不利な旬が、
包丁捌きで大吾を圧倒しており、素材の
良さは大吾、味は旬ということで
今回も引き分けとなります。
またも自分が三流店だと思っている
寿司屋の息子に勝てなかったことに、
大吾は憎悪にも似た感情を抱きます。
そして、旬も大吾を憎らしく
思っているので彼に勝つことに
執着するのでした。
その後も銀座地区新人寿司職人
コンテストなど数々の機会に旬と
大吾は対決していきます。
大吾が勝利する時があっても、それは
嘉志寿司の力で買えた素材の明らかな
アドバンテージによるものであって、
裏では旬の独創的な工夫に
判定者らが唸らせられることも
あったのです。
大吾との勝負に熱くなる一方の旬ですが、
修練を重ねる過程で鱒之助から
ツケ場に立つことを許されるのでした。
江戸前の旬~旬と大吾~のネタバレと今後の展開は?
旬と大吾は伝説の職人と呼ばれる、
新橋の親方・大澤に店の手伝いを
頼まれます。
そこで親方から二人は寿司について
学ぶことが多くなっていました。
ここでも旬に勝利することに燃える
大吾が度々寿司勝負を挑み、その
判定を大澤に求めます。
コハダの仕込み勝負、サバ寿司勝負の
二戦に大澤はいずれも明確な優劣を
つけることはありません。
大澤は旬と大吾に可能性を感じており
彼らが将来どんな職人へと
成長するのかを楽しみにしていました。
時が経ち、大澤は二人に新たな
課題を与えます。
それは『最高の一貫を握る』という
もので、最後の課題でもありました。
併せて、それを『誰の為に握るものなのか』
その理由も説明することとし、4ヶ月先の
3月末日に答えることになります。
4ヶ月の間、それぞれの店で精進する
二人は当日のタネを決めるまでになります。
大吾は尊敬する父の為に、そして
旬は鱒之助から唯一褒められたという
理由で、それぞれのタネを
選択していました。
偶然にも二人の決めたタネは
同じもの、コハダだったのです。
3月末日の勝負直前に柳寿司に
老夫婦が客として訪れます。
その夫婦から旬は、両親がまだ
幼い自分を背負いながらも子育てと
店の切り盛りにがんばっていたことを
聞き、親への感謝の念を新たにします。
その老夫婦はコハダを所望しました。
今あるコハダは課題用に準備したもの
だけでしたが、旬は目の前にいる
客の為を思い、そのコハダを
寿司にしたのです。
勝負の場で旬はタネを持参
できなかったことを明かします。
大澤が何故そうなったのかを
問うたので旬は経緯を説明しました。
続けて大澤は大吾に今日のネタを
誰の為に用意したのかと尋ねると、
大吾は父の為と答えます。
親方はタネが揃っていないので
勝負はナシとし、今度は旬たちを
客席に座らせて自らツケ場に立ちました。
親方は、二人が認められたいと思う
存在を、大吾は親、旬は客とし、
どちらが職人の考えにふさわしいかは
明白だとしながら、一貫の寿司を
差し出します。
その寿司を見て旬と大吾は
動けなくなるだけでなく、涙を
流してしまいます。
そして、それぞれの店に戻った
旬と大吾は今日も寿司を握るのでした。
江戸前の旬~旬と大吾~の読んでみた感想・評価
これは『銀座柳寿司三代目 江戸前の旬』
(以下「本編」とします)という
1999年から連載の続いている
長寿作品のスピンオフです。
本編の愛読者からするとこれを読むと、
本編と本作品との若干の設定の違いが
面白みになると思いました。
印象としては、本編に比して大吾の
人間像は本編の前半にもあった
彼のそれに似ていると言えますが、
旬については本作品の方は少々
荒々しい性格に見えました。
それは本作品は旬と大吾の勝負に
重きを置いている為に両者の
競争心を鮮明化したいという考えから
きていると思われます。
本編でも荒々しい旬を見ることは
あっても本作品のような連発では
ありませんので、この点は大きな
違いに感じられることでしょう。
ライバルと思う者に対して
闘志むき出しになりやすい
“こちらの旬”の方が高校出たての
血気盛んな若者らしく見えました。
料理漫画には勝負事はつき物と
言えますので、全体ボリュームが
単行本3巻分にもかかわらず多数の
寿司勝負が盛り込まれている辺りは、
高揚感を抱かせてくれました。
また、旬と柳寿司がヒーロー的立場と
すれば、大吾と嘉志寿司がヒールの
立場となる点が物語のあちこちで
散りばめられていて、本編を知らない人が
本作品から読んだとしても分かりやすい
ストーリーに仕上げられているな
と思います。
江戸前の旬~旬と大吾~はこんな方におすすめな作品!必見
どのような人にオススメするかと
問われれば、まずは本編の
ファンに是非読んでもらいたいと
言いたいです。
本作品には著名な陶芸家であり
舌も肥えている深大寺と、
伝説の職人・大澤の親方が
キーパーソンとして登場しますが、
多分両者とも本編には登場して
いないと思います。
深大寺は柳寿司と嘉志寿司の双方を
頻繁に客として訪れています。
彼には、旬の独創さを大吾にそれとなく
匂わるシーンがありましたが、このような
深大寺にあたるキャラは本編には
いないかと思います。
大澤は、旬と大吾に寿司職人として
大切なことは何かを示し、黙らせて
しまう重要な役回りでした。
まだ若い二人にどちらかと言えば、
深大寺は心配することがあり、大澤は
その将来を大いに期待している、
そういう風に区分けして
描いている感があります。
深大寺と大澤は、本編と本作品の
似て非なるものの一つであり、
本編ファンにも別作品と位置づけて
読んでもらうこともいいのかなと思います。
また、グルメ漫画ファンにも
オススメします。
定番の料理勝負だけでなく、
寿司に関する薀蓄も盛りだくさんなので、
これを読めば握り寿司を食べたくなるのは
間違いないはずです。
併せて読むことを推薦したい作品は、
同じ作家・作画家による
『〈江戸前の旬〉特別編 寿司魂』と、
『北の寿司姫』です。
前者は旬の父・鱒之助の若き日々を
経済成長著しかった昭和の日本の
世相を背景に描いています。
後者は旬に憧れる北海道の女性
寿司職人で旬も認める才能の持ち主が
活躍するものです。
時代や土地を超えて両作品のキャラが
本編に登場するのも一つの見所と言えます。