タイトル | 終電ちゃん |
---|---|
原作・漫画 | 藤本正二 |
出版社 | 講談社 |
喜びや悲しみ、乗客たちが織りなす
人生の悲喜こもごもを乗せて終電は走る。
一日の終わりを締めくくる
特別な電車を仕切るのは、
個性豊かな「終電ちゃん」たち……。
ちばてつや賞入賞の読み切り作品が
装いも新たに登場!
読めば一日の疲れや悩みも解消する、
感動の「終電擬人化コミック」!
終電ちゃんのあらすじ紹介
JR中央線の高尾行き最終電車を
取り仕切る「中央線の終電ちゃん」。
駅員や運転士のみならず
乗客までも呼び捨てにする口の悪さだが、
仕事に対する情熱は万全の信頼を得ている。
ホームに溢れる酔っ払いには
発破をかけて乗車を促し、
あらゆる事情で乗り遅れそうな乗客
一人ひとりに気を配り、
乗り換え線の終電ちゃんと喧嘩してまでも、
その信念である「乗客を無事に最後まで
送り届ける」を貫きとおす。
ゴスロリファッション大好き、
ツンデレ系な「山手線」、
温和でのんびり、
ちょっとドジな「小田急線」、
ハリセン片手に乗客をどつく
「大阪環状線」、
お酒が大好き「南武線」などなど……。
日本全国津々浦々で活躍する
終電ちゃんたち。
彼女らに、ある時は叱責され、
ある時は励まされ、またある時は
大事なことを気づかされ。
遅い一日の終わりを彩る、
温かい物語が今日もどこかで
開幕する……。
終電ちゃんのネタバレと今後の展開は?
「中央線の終電ちゃん」が
一応主人公の位置にいるが、
毎回登場するというわけではない。
ただ、他の終電ちゃんが中心となる
話でも、何かしらかで
絡んでくることが多い。
大晦日から元日にかけては
全国各地の鉄道会社は
特別編成の終日運転を行うことが多いが、
その時は終電ちゃん唯一の休日となる。
小田急線の呼びかけで、
関東地域の終電ちゃんが箱根に集まり
忘年温泉旅行がもよおされた。
ちなみに南武線は
終夜運転ダイヤとならなかったため
旅行に行くことができず、
何故か中央線に抗議の電話を入れたうえで、
(いつものように)乗客と車内で
酒盛りをして憂さを晴らす。
物語自体はほぼ一話完結の
オムニバス形式であり、
終電ちゃんに対峙する人間(乗客)側の
登場人物も毎回違っているが、
運転士の吉本よしこ、
終電ちゃんを追うフリーライター・寺岡、
中央線終電常連乗客である会社員の
圭一と雪奈は人間側のレギュラーという
形になっている。
これらの登場人物については、
初回登場時から少しずつ
それぞれの立場が進展している。
見習い運転士だったよしこは
正規運転士になり、
電車の運行状況が心配で
確認電話を頻繁にいれてくる中央線に
小言を言うまでになる。
圭一と雪奈の関係も、最初は
圭一の片思いだったが、
回を重ねるうちに少しずつ
両想いに近づいている。
寺岡の前には終電ちゃんを追う
他誌のライバルライターが現れたり、
書いた記事の内容が評価されたり
といった描写もなされている。
終電ちゃんの読んでみた感想・評価
まず、終電前後の駅の描写や
終電の車中の様子がなかなかリアルに
描かれているところは面白いと思う。
現実にはありえない「終電ちゃん」という
存在があるにもかかわらず、
リアル感を損ねていない。
終電ちゃん(中央線のみならず各線とも)を
狂言回し的な位置におきつつ、
それぞれの人生模様を「駅」
もしくは「車中」という限られた空間の中で
演じさせていることが効果的なのだろうか。
駅で寝そべっていたり、
トイレで嘔吐する酔っ払い。
目的地までつくことができず
駅員に文句を言っている乗客。
終電を利用したことのある人なら
一度は見たことがある光景
(本音を言えば、できれば
お目にかからずに無事に家路に
つきたいもの)だが、
それら「マイナスの出来事」も
うまい具合にドラマにつなげて、
心に残るような結末に導いている。
毎回のように、喜びや悲しみをはじめ、
あらゆる感情が結構ストレートに
伝わってくる
(そのようなマイナスの出来事を
はさんでいるゆえか?)
物語展開である。
終電ちゃんを二頭身の
デフォルメキャラで
描いているのもいい。
しかも、口が悪かったりツンデレだったり、
その見た目のイメージとは
かけ離れた性格や行動も
面白いところがある。
特に中央線は見た目は
子供っぽいのだが、酒飲みで、
一升瓶を横に布団に入っている
シーンがあり、そのギャップが
なかなか素晴らしい。
終電ちゃんはこんな方におすすめな作品!必見
ジャンル的には鉄道コミックの印象を
強く持つ人がいるかもしれないが、
鉄道ファンでなくとも
楽しめるようになっている。
むろん鉄道ファンにはより注目して
読める内容になっている。
鉄道系コミックとしては、
「カレチ」をはじめとした一連の
池田邦彦氏作品が注目されることが多い。
たまたまかもしれないが、
同じモーニング出身で、
ちばてつや賞受賞ということなので、
池田氏ファンも読んでみてもらいたい。
鉄道を前面に押し出している
わけではないが、ところどころに
ちりばめられた「ツール」に
思わずニヤリとできるかもしれない。
物語自体としては鉄道を下敷きにして、
それを利用する乗客が持つ
「人間ドラマ」を描くことを
重視しているようにも見える。
そして、その人間ドラマも、
悲劇やドロドロした愛憎劇は出てこない。
感動系、癒し系につながるような
話として展開されている感が強いと思う。
特にこの物語の登場人物(乗客)で
多いのが「会社員」である。
終電利用者というとやはり会社員が
多いのは当然なのかもしれないが、
それゆえ、物語中でも会社で
起きている問題や
それに関わるような悩みが描かれ、
終電ちゃん流の「叱咤激励」が
よく展開されている。
日頃の仕事で疲れているビジネスマン
などにも意外とオススメかもしれない。