タイトル | 黒蔦屋敷の秘めごと |
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原作・漫画 | 大海とむ |
出版社 | 小学館 |
家政を学んできた千鶴は、
幼い頃から憧れてきた
「雪比古坊ちゃん」の世話をするべく、
懐かしい館に帰ってきましたが、
昔と同じく優しい彼には、
実は恐るべき秘密があり……。
耽美で静かな古典的な館を舞台に、
今風の設定を挟みながらも、
あくまで王道の展開が楽しめる、
現代流「館もの」ストーリーです。
黒蔦屋敷の秘めごとのあらすじ紹介
人里離れた古い館で暮らす、
「坊ちゃん」雪比古。
彼を幼少の頃から知り、
亡くなった母のようにお世話をと
ずっと思ってきた千鶴は、
大学卒業を機にようやく念願の
雪比古との二人暮らしを始めます。
もちろん慕うだけの関係と
密接に生活を共にするのでは
違う部分も出てきますが、
強い絆を持つ二人は
ますます親しくなり、
仲睦まじく暮らし始めます。
ところが雪比古の「体質」には
恐るべき秘密が隠されており、
ある時千鶴もそれに気付くのでした。
黒蔦屋敷の秘めごとのネタバレと今後の展開は?
大学を出た千鶴は、
卒業式もまだなうちから、
かつて母が家政婦として、
誠心誠意働いていた
館に戻ることにしました。
そこには雪比古という
当主の男性だけが、
千鶴の帰りを待っていました。
家政婦として働くとは言え、
雪比古の対応は従業員に
対する態度ではなく、
昔話などもしながら
のんびりと千鶴は
時を過ごしていきます。
しかしいつまでも昔の
「坊ちゃん」ではない
雪比古のストーカー的な、
秘密を知ってしまったりと
ちょっとした騒動はありますが、
二人の絆は確かでした。
しかし、異様なほどに
体調をすぐに崩してしまう
雪比古の肉体には、
幼少の頃の「約束」が発端の
恐るべき秘密がありました。
それは古い「存在」と結び
力を借りて生きる一方で、
魂を喰らわないと生きられない、
呪われたようなものであり、
平穏に暮らそうとしている
雪比古を容赦なく追い込みます。
しかしあくまで千鶴の思いは強く、
雪比古の「正体」を知っても、
彼の元から去ろうとしませんでした。
黒蔦屋敷の秘めごとの読んでみた感想・評価
定番で文学的な物語ですが、
意外なくすぐりと王道のバランスが
絶妙で安心感がありましたね。
明治維新以降、急速に西洋文化が
浸透した中で花開いたのが、
近代文学というジャンルですが、
その中では人里離れた館に、
浮世離れした主人が住んでいたり、
美しい使用人がいたりといった、
「館もの」の物語が
隆盛を極めたりもしました。
お手軽な「異世界」なため
読者も旅情気分を味わえ、
作品的にも「孤島もの」の、
探偵作品の効果が得られるなど、
非常に優れていた分野でしたが、
最近では少なくなりました。
しかし本作は極めて定番かつ
王道の「館もの」であり、
耽美で静かな雰囲気があるので、
古き良き作品も好きな私には
まさにストライクな感じでした。
その一方、単に古いだけではなく、
ご主人がストーカー行為を
普通に続けていたり、
今風な変化球も数多く含まれ、
途中で読み飽きることがありません。
ただ、主人が背負う悲劇や重い運命、
そのために半ば定められた、
悲恋などなどの王道要素は、
完璧に真正面から盛り込まれ、
全体を茶化すような展開には
ならないので安心でもあります。
耽美かつ妖艶にして丁寧な、
館の中で紡がれる愛の物語は、
最近の作品には珍しい、
静かな感動といったものを
もたらしてくれましたね。
黒蔦屋敷の秘めごとはこんな方におすすめな作品!必見
人里離れた廃墟のような館に住む主人と、
彼を支える美しい使用人の絆。
まるで古典文学作品のように純粋で、
静かな世界観と言えますが、本作は
ただ古典的な流れを継いだわけではなく、
ご主人は最愛の女性相手に対して
相当なストーカー気質だったり、
斬新な設定が見られます。
また、少しほっとしたところで、
本筋の恐るべき「秘密」が明らかに
なってきたりといった部分もあり、
密度の濃い耽美的な物語を楽しむなら、
本作はまさにベターな一作と言えます。
話のテンポが良く登場人物も
かなり限られているので、「場」が
乱れたりする心配もありませんし、
作品の軸やキャラクターの性格が
ブレることもないので、
落ち着いて読み進めることができます。
古い館の当主に宿る悲劇という
定番の形を取りつつも、安易に
グロテスクな描写や展開に、
走ったりといった受け狙いが
見えにくいのも個人的には
嬉しかったです。
妖艶で恐ろしくもありますが、
かなり正統派な作品でもあるので、
こうしたジャンルが慣れていない、
合っているかどうか知りたい方にも
本作は非常に適しています。