タイトル | タナトスの使者 |
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原作・漫画 | 吉田穰 赤名修 |
出版社 | 講談社 |
適格者に対してのみ、
「死」を提供する裏のプロ集団。
代理人の来島をはじめ、
普通の若者にしか見えない彼らの
「審査」の実態とその結果は……?
命の形を今までとは異なる方法で
問いかけてくる、
新感覚のヒューマンドラマです。
タナトスの使者のあらすじ紹介
タナロジー学会の代理人を名乗る
来島は、依頼者に「死」を
提供する仕事人でした。
職業柄極めて用心深く、かつ繊細に
来島は目標の調査を進め、
ついには安田の妻からも話を聞きます。
しかし、仲間が仕上げてきた書類と
家族に関する証言が食い違い、
さらに夫に関する意見も、
何となく不自然を感じた来島は、
さらに周囲の人まで範囲を広げ、
聞き込みを続けていくのでした。
そして、近所の人のある話から
安田たちをかつて襲った
ある悲劇が導き出されるのでした。
タナトスの使者のネタバレと今後の展開は?
日本タナロジー学会の代理人、来島。
一見普通の若者である彼ですが、
実は「死」を提供するプロ。
それも単純に「始末」するのでなく、、
依頼者の内情を調べ上げて審査し、
適格者である時のみ仕事をします。
そんな彼を待っていたのは、
依頼者の安田 隆一。
末期の肺ガン患者です。
待たせられた安田が焦れていても、
来島は人を食ったような応答を飛ばし、
「仕事」の説明をします。
一方、予想外の「審査」という言葉に、
安田は動揺しますが、
結局事情の詳細を口にします。
自宅療養での長患い、告知された
余命からも大きく伸びた時間の中、
妻は深刻に疲れている。
自分の病気がきっかけで
教室の教授も辞めて
安田の世話に専念しているが、
もうこれ以上縛り付けたくはない。
だから安楽死したいと安田は言います。
彼の言葉には偽りはなく裏もない、
これが来島の結論でしたが、
まだ一方としか話していないと
彼は調査を続けます。
そして、揉め事からきっかけを作り、
成り行きな感じで潜り込んだ来島は、
安田の妻にも話を聞くのでした。
タナトスの使者の読んでみた感想・評価
子供の頃体が弱かった私にとって、
本作のような内容の作品は
どうしても緊張してしまいます。
しかも来島たちには、対象に対し、
「死」を提供するというほどの
おどろおどろしさは感じられず、
そこがかえってプロっぽい
恐ろしさを滲ませていました。
もっとも来島たちは、
「人の死」が仕事である割に、
熱心にノルマを進めたりはせず、
慎重に慎重を重ねて、
ターゲットの内情を調べ上げ、
内面に踏み込んで審査します。
つまり、彼らは大金目当てではなく、
面倒を避けるために
すぐ「始末」する業者ではありません。
あくまで厳選した適格者にのみ、
望みのものを与えるスタンスです。
していることは「殺人」ですし、
犯罪でもあるのでしょうが、
そのプロ意識の高さは爽やかです。
また、後ろ盾が少ない分、
事が表沙汰にならないよう
慎重に慎重を重ねてもおり、
そのじっくりとしたスタンスに、
単なる娯楽作品ではない
「本物志向」を感じました。
表情の変化や背景など、
細部にわたる描き込みも丁寧で、
確かな力が伝わってきましたね。
タナトスの使者はこんな方におすすめな作品!必見
患者の病気を治し、少しでも健康にする。
これが医者や医療従事者の使命です。
このことは経験や職域に関係ない、
共通したものと言えますが、
本作に出てくる「使者」は、
まったくその逆で、人に死を提供します。
しかし彼らには死の使者というほどの
ドライさは見えません。
例えば「ブラックジャック」に出てくる
ドクターキリコはほとんど楽しそうに
安楽死させていきますが、
本作に登場する「医師」たちは、
良くも悪くも普通の若者であり、
むしろ人を活かす方が得意そうです。
そのキャラ造形は意外なほどですが、
医師という職業を考えてみた場合、
たとえ短い時間でも患者対しては、
密接に付き合う必要があるわけで、
このタイプの方が自然に思えます。
また、大金や野望といった、
分かりやすくギラついた動機も、
主人公の来島たちには見えません。
即物的な匂いがしない分、
非妥協的な性格やミステリアスさが見え、
かえってキャラに厚みが出ていますね。
最初の依頼者もひねくれてはおらず、
悪い意図が見えないため、
主人公側に感情移入した状態では、
骨を折った甲斐があると感じました。
何故生を諦め死を欲するのか、
「調査」を通じて各人の人生に迫る
じっくりとした妙味も含まれています。