タイトル | FIGHTING COCK |
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原作・漫画 | あだちつよし |
出版社 | 集英社 |
ボクサーですら熱さの少なくなっていた
時代の閉塞感を、力づくで打ち破るような
極上の素材と、かつての
名ボクサーは出会った。
ヤンチャで情の厚い鶏一と、
年を取ってもなおボクシングへの
思いを断ち切れずにいる松丸が
二人三脚で強敵との戦いに挑む、
王道ボクシング漫画です。
FIGHTING COCKのあらすじ紹介
藤原 鶏一という才能を見出した松丸は、
いよいよ自分が社会人であることの
不自由さを感じるようになります。
鶏一を仕上げるには、自分も
ボクシングへの関わり方を
変えざるを得ないと考え、ついには
会社を無断欠勤します。
そして松丸は退社を決意し、
上司である義兄と向かい合います。
元々彼が不真面目でないと知っている
義兄は動揺しますが、決意は固いことを
知り、別の世界で生きることを選びます。
退路を失った松丸は、自分の夢に
向かって走り出すのでした。
FIGHTING COCKのネタバレと今後の展開は?
かつて名ボクサーとして
鳴らした松丸 辰吉。
しかし引退後はサラリーマン社会に埋没し、
営業マンとしても愛想が下手で成功とは
ほど遠い日々を送っていました。
ボクサーをイメージ・キャラとして
選定するという大仕事も、自分の過去の
経歴がものを言ったに過ぎません。
加えて、ギラついた魅力的なボクサーが
減ったこともあり、ボクシングそのものへの
関心も低落しつつあるのを
自覚するほどでした。
選手として通いつめたはずの
後楽園ホールに到着しても、松丸の
気分が沸き立つことはなく、選定の
仕事自体も後輩に任せ、自分は外に
出てしまうほどでした。
しかし出た先で喧嘩に出くわし、威勢の
良い若者が不良集団に殴りかかり、
ボス格だった田中選手を殴り倒すのを
目撃してしまいます。
しかもその若者は、松丸たちがホールに
向かう列車でも大立ち回りを見せた
本人だったのです。
互いに拳を交えたりする中で、次第に
距離を縮め合う松丸と若者、藤原 鶏一。
実は鶏一には不良集団を的にかける
確固とした理由があり、自分に近しい
女性へのとある深刻な事件の話を聞き、
不良の頭である対馬 マコトと
ぶつかろうとしていたのです。
腕に覚えのある者同士、存分に殴り合う
二人ですが、対馬は明らかにボクシングの
玄人であり、しかも並大抵の経験者では
ありませんでした。
FIGHTING COCKの読んでみた感想・評価
実に一本気で熱い作品でした。
古今ボクシングをテーマとした
漫画は極めて多く、名作もズラリと
居並ぶだけに、後発の作品は
ついつい「変化球」に走ってしまいがちに
なるのですが、そんな中で、腕自慢の
ヤンチャ坊主とかつての名ボクサーが
街で出会い、自分よりももっと強いワルに
やられた若者と組んで、二人三脚で
力を磨き、そして再度の対決へ、
といった王道展開を真っ向から
見せてくれたので、読み手としては
素直に熱くなれました。
ある意味では「段平とジョー」にも
通じた関係性もみえるのですが、
世をすねた根無し草だった
ジョーたちと比べ、辰吉にも
鶏一にもきちんとした生活があり、
守るべき他者といった決め事も
持っています。
だからこそ生まれる「説得力」は、
王道ではあるのですが、一方で
本作以前のボクシング漫画には
あまり見られなかった構図でも
あるかと思います。
とかく一時期のボクシング漫画の
主人公は一匹狼が多く、作品の
後半でなく序盤の背景として
守る対象を持っている人は
少ないことが少なくないために、
本作に説得力を感じることができました。
拳闘シーンのディティールも非常に高く、
力だけでも技だけでも勝てず、結局は
精神力がものを言う、ボクシングの
重要な部分をきちんと抑えていて、
好感が持てました。
FIGHTING COCKはこんな方におすすめな作品!必見
ボクシング漫画で特に重要なのは、
戦いのシーンもさることながら、
「出会い」の部分だと思います。
どうしても辛くて苦しく痛い思いを味わい
続けなければならないからには、それなりの
理由が必要になってきますし、
読者側としても納得のいく
動機でないと応援し続けるのは
難しくなってきます。
その点、本作における鶏一が示した
動機は非常にシンプル、強敵を
殴りたいということと、それが
「女性のため」でもあるということ。
いわゆるお金の為にリングに上がる
といったハングリーはとはやや距離があり、
ボクシング漫画で導入に女性が絡むことも
珍しいぐらいですが、不思議と鶏一には
マッチします。
女性との距離を徹底的に取ることで
硬派を標榜する作品も、もちろん
一興ですが、惚れた相手のために
力を尽くすというのも「男」としては
非常に正しい姿だと思いますね。
また、鶏一の実力と闘争心を直に
味わい、実力者の対馬が限界を
感じた後も、屈託なく、ダラけることなく、
しかもスポーツ感覚ではない
ボクシングに挑んでいく鶏一の姿は
ボクサーとして非常に「正しい」
ものがあり、ドロドロとした背景を
負っていない分爽やかでさえあります。
日本ボクシング界にほとんど
世界チャンピオンがいなかった
「冬の時代」を描いた一作ですが、
徹底的にストイックに、アスリートばりの
英才教育なども施されつつ世界を
目指していく当節のエリート・ボクサー
とも、戦後の混乱期や
「あしたのジョー」で見られたような、
情念の人の形に切り出したような
拳闘士たちとも異なるスタンスを
持つ選手たちが多く、それは、
先が見えず、やや浮わついて
いながらも間違いなく強烈な勢いを
持っていた、あの頃の若者たちの
実像であるかも知れません。