タイトル | 銭ゲバ |
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原作・漫画 | ジョージ秋山 |
出版社 | 幻冬舎 |
世の中はゼニだ、
ゼニさえあればいいんだ。
自らの経験から金銭至上主義とでも
言うべき強烈な信念を持つに至った
風太郎は、あらゆる手を使って成功を
収めるが、心に平穏が
訪れることはなかった。
あらゆる建前をも消し去った叫びと
生き様が、恐ろしくも人の心を打つ、
ピカレスクものの古典かつ傑作です。
銭ゲバのあらすじ紹介
困窮によって悲惨な目を受け続けた
蒲郡 風太郎は、母の死をきっかけに
世の中は銭だという決意を抱くに至り、
成り上がりはじめていきます。
しかし、時に殺人すらいとわない
その容赦のなさは、過去の未解決事件
という形で風太郎を苦しめていきます。
あらゆる背景を持った人々による
執拗な追跡をかわし、さらに金を
かき集めていく風太郎でしたが、
それはさらに悪事を重ねることを
意味してもいました。
大企業の社長になってからも、利潤重視で
環境や健康などまったく考慮しない
風太郎は、やがて公害企業の社長として
問題になっていきます。
銭ゲバのネタバレと今後の展開は?
父親が家におらず貧しい身の上で、
しかも風貌も冴えないことから、周囲から
ひどいいじめを受け続けていた
蒲郡 風太郎は、病弱な母を
大変慕っていました。
しかし効果がありそうな高い薬を
使えず、それどころか治療費を
滞納しているということで医師からも
見放されつつあるなど極めて
状態は良くありません。
そしてついに発作のように倒れてしまった
母は、一時は容態を回復させたものの、
ほどなく亡くなってしまいます。
その悲劇に直面した風太郎は、世の中は
銭だという強烈な信念を持つに至り、
目に付いた大金を奪取して逃げようと
思い立ちますが、その動きを近所の
お兄さんに気付かれ、しかも必死で
争ううちにそのお兄さんを
殺害してしまいます。
優しいお兄さんを手にかけてしまった
風太郎は、もはや銭に生きると決意を
固め、さらに具体的な計画を立てます。
大昭物産社長の車を見つけると、
事故を装ってきっかけを作り、
その内懐に入り込んでいきます。
しかも、自らの「過去」に気付いた新星をも
殺害して相対的に地位を上げていくといった
徹底ぶりで身分を固めていく風太郎は、
社長の娘正美の心を射止めると、さらには
社長までをも殺害し、巨大企業を
その掌中におさめます。
困窮によって悲惨な目を受け続けた
蒲郡 風太郎は、母の死をきっかけに
世の中は銭だという決意を抱くに至り、
成り上がりはじめていきます。
しかし、時に殺人すらいとわない
その容赦のなさは、過去の未解決事件
という形で風太郎を苦しめていきます。
銭ゲバの読んでみた感想・評価
小柄で能力も何も持っていない、恐らく
ほとんどの作品でも脇役にもなれない
だろう風太郎が、まさかここまで
恐ろしくなるとは思いませんでした。
お金の問題から母親を亡くし、とにかく
「銭」なのだとこの世の一つの
真実を読み取ってしまった少年が、
相次いで人を殺害し、あらゆる
あくどい手を使ってのし上がっていく。
スポ根もの、バンカラものが主流だった
当時の漫画界にあって、銭ゲバの
存在感は驚くべきものだったことは
簡単に想像できますし、日本経済が
上り調子で、イケイケの時代にここまで
強烈に「銭」を追い求めた本作には、
魔力めいた情念さえ感じます。
経済状況が良くなっていく中でも
取り残され困窮している人は必ず
いますし、企業の論理が優先され、
現代のような環境基準がない中での
公害問題に苦しむ人もまた然り。
本作は風太郎という恐るべき「銭ゲバ」に
焦点を当ててきた一方で、苦しい
生活を続けながらも必死に生きる
普通の人たちに温かい視線を
向けた作品のようにも思えるのです。
いかなることでも作者の思い通りになる
フィクション世界で、一切ぼかすことなく
「銭」の恐ろしさを説く本作は一昔前よりも
はるかに、「儲けること」が肯定的に
とらえられている現代でこそ、広く
読まれるべきではないかとも思いましたね。
銭ゲバはこんな方におすすめな作品!必見
お金があれば何でもできる、というのは
錯覚ですが、必要な時にお金がないことで
ひどい状態に陥りがちなのもまた事実。
そうした困窮経験を経て成り上がる人は
大勢いますし、創作物語の
導入としても定番です。
しかし本作の主人公、風太郎は困窮が
原因で母を亡くした際、目に付いた
大金を持ち逃げしようとしたばかりか、
止めに入った親しくしていた
お兄さんを殺害してしまうという、
もっとも最悪な状況に陥ってしまいます。
その後に流れ着いた先でも大企業の
社長の懐に潜り込んだものの、
秘密がバレそうになると殺人や
放火などの悪の限りを尽くし、ついには
主人の社長の座までをも
奪い取ってしまいます。
彼の血塗られた過去に気付いた
人々との緊迫感ある追跡や賄賂に
次ぐ賄賂と、まったく救いようのない
展開が続いていくわけですが、その
怒涛ぶりは本作登場から半世紀近くが
経過し、数え切れないほど
ピカレスクものの作品が登場した
今でも、全く色褪せることはありません。
また風太郎には野心はあっても
日本中の人や国家を動かそうという
野望はなく、また利益を得ようと
考えることはあっても本心からの
人助けに動くこともありません。
だからこそ彼は、どれほど地位が
上がっても大物然とした雰囲気や
哲学を身に着けることができず、
その点も他の悪役たちとの
違いだと言えます。
徹底的に「銭」の持つ魔力とそれに
絡む人の救われなさを描いており、
安易な解決が示されていないところも、
公害等々の問題が全国で噴出していた
頃の日本を描いた作品ならではとも
言えますし、長い時を経てもなお、
非常に評価される一因とも
言えるのではないでしょうか。