タイトル | 愚か者の恋 |
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原作・漫画 | 七尾美緒 |
出版社 | 小学館 |
ちょっと勉強が苦手なのぞみは、
いつも余裕な兄の友達、佐倉の
眼鏡を隠すイタズラをしたところ、
いつもとは違った彼の素顔を
知ることになって……。
王道な関係の物語の中で、
繊細な心理を描写し切った、
表題作を筆頭に様々な
作品が楽しめる短編集です。
愚か者の恋のあらすじ紹介
女学生ののぞみは、かねてから、
兄の友達でありいつも余裕で、
さらっとやりこめてくる佐倉を、
苦手に思っていましたが、
のぞみがあるイタズラをすると、
佐倉は違う表情を見せました。
その野性的とも言える雰囲気に、
のぞみは衝撃を受け惹かれますが、
勉強を教わるようになってからも、
佐倉は余裕な態度を崩しません。
しかしのぞみの再びのイタズラで、
「素顔」を露わにした佐倉に、
のぞみはキスを要求し、
二人は一気に距離を詰めますが、
佐倉にはそれとも異なる、
また別の顔があったのでした。
愚か者の恋のネタバレと今後の展開は?
普通の女子学生のぞみは、
お兄さんの友達で、いつも平然として、
サラッと毒舌を使ってくる、
佐倉が実に苦手でした。
親がいないその日も散々に
やりこめられたのぞみは、
兄がおらず佐倉が風呂場にいる、
そのタイミングを狙って、
佐倉の眼鏡を取るという
イタズラを仕掛けます。
しかし佐倉の眼鏡は、予想より
度が強く、故に佐倉はよろけ、
のぞみと密着しますが、
その瞬間のぞみの心に、
思わぬ衝動が生まれます。
一方のぞみはテストで
赤点を取ってしまい、
母親からは大目玉を食いますが、
兄も勉強では頼りにならず、
代わりに学業優秀な佐倉を、
頼ることになります。
もっとも、家族の前では
いい顔を見せてのぞみの
家庭教師を快諾した佐倉も、
二人きりで教える段になると、
途端に不満を口にし始めますが、
相変わらず何をするにも余裕で、
距離を崩さない佐倉に対して
のぞみはモヤモヤを
抱えるようになっていきます。
しかし部屋の中で寝た感じの
佐倉のサングラスを再び、
のぞみが奪ったところ、
佐倉は今までとは違う表情を
見せてくるのでした。
愚か者の恋の読んでみた感想・評価
年上の先輩系キャラと
妹という定番の組み合わせながら、
随所に「人間」を深く描き、
立体的にしていこうという
強い熱意が感じられ、
グイグイ読んでしまいました。
本作は王道な感じの恋愛ものですが、
その安定感を支えるだけの
「繊細さ」があるのが特徴ですね。
例えば、気になる兄貴の友達に、
軽いイタズラを仕掛ける展開は、
創作上非常に定番ですが、
そこを軽いギャグだけで流さず、
ごくわずかな間でも相手が、
本気で困る描写があるんですね。
確かに言われてみれば、
何も落ち度がない状態で視界を
奪われてしまったりするのは、
相当に「重い」話なわけで、
食らった側にとっては、軽く、
済ませられるものとも限りません。
もっともそこで生じた「重さ」を
引きずらないのも佐倉の強さで、
だからこそのぞみも彼に惹かれたと、
作中での説得力を強めていますので、
読者としてもより確かに、
ドキドキを楽しめました。
また、俺様系でドSなキャラは、
最近実に多かったりしますが、
本作はそうした部分に関しても、
様々な「理由」が見える配慮があり、
だからこそキャラに実感がこもって、
感情移入がしっかりできましたね。
わずか数歳違うだけでも、立場や
置かれた状況で「子供」と「大人」が
完全に違ってくる難しい年頃の、
敏感な心理が実にうまく
表現できていると思います。
愚か者の恋はこんな方におすすめな作品!必見
ほとんどの場合は兄や姉を本気の
恋愛対象と見ることはないと思いますが、
彼らの「友達」となると、特に若い頃は、
もっとも身近な「大人」ということで、
思わずドキっとしてしまうことも
少なくないのではと思います。
本冊の表題作ではでは
そうしたあるあるな恋心の
「何故」の本音の部分を
深く切り込んで描いていたりもします。
他の多くの作品であれば、見た目や、
ちょっとした態度がカッコイイ、
経験豊富だと簡単に結論を出す所で、
では彼は何故経験豊富な「大人」で、
より深みのある態度を取るのかを
しっかりと描き切っているんですね。
そのため単なる少女向けではなく、
かつて感じた「大人感」の正体を
知りたいと考える大人たちや、
表面的ではない人柄の持ち主と、
じっくり恋愛気分を味わいたい方に
オススメできる一作と言えます。
また、色々重い背景を描くと、
登場人物の性格描写から物語まで、
全てその「方向」に行くことが、
創作では少なくありませんが、
本作のバランスは非常に良く、
だからこそリアル感があります。
普段は何だかツンケンしていても、
本当に困りそうな時は積極的に
声をかけてくれたりと言った、
お兄さんと妹の距離感も、
実に絶妙で良かったですね。