タイトル | 脱獄ドクターいのち屋エンマ |
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原作・漫画 | 富沢順 |
出版社 | 日本文芸社 |
刑務所に服役中の元、天才外科医
円馬 光也は、無気力過ぎるほどの
服役生活を送っていましたが、ある日
唐突に妹が生かされている
ということを知り……。
現役の服役囚が表沙汰にはできない
患者を治す闇医者をするという、
アウトロー色の濃い痛快医療作品です。
脱獄ドクターいのち屋エンマのあらすじ紹介
天才外科医として名声を
欲しいままにしていた円馬 光也。
しかし彼は裏で向精神薬の密売などを
行っており、長期間の懲役を
科されてしまいます。
無気力な服役生活を送る
円馬のもとに、妹を名乗るものの、
明らかに妹ではない女性が
面会にやってきて、妹が無事であることを
知らされます。
しかし、その後円馬は懲罰房送りに。
脱獄の計画がバレたのかと思いきや、
不自然に古いその房は、外の世界と
つながっており、円馬は「シャバ」に
出ることに成功します。
しかしそれは、円馬が闇医者として
活動するための「手段」でしかなく、
彼は妹の治療費を得るために
奮戦することになっていくのでした。
脱獄ドクターいのち屋エンマのネタバレと今後の展開は?
闇サイトでの向精神薬密売など、様々な
悪事のために長期間の懲役刑に
服すことになった、元天才外科医の
円馬 光也ですが、服役以来屍のように
無気力な日々を送っていました。
しかし、彼の妹をかたる女性、花音が
面会にやってきたことが契機となり、円馬は
妹の治療費を稼ぐために、表ルートには
依頼できない医者を秘密裏に治療しては
刑務所に戻るという闇医者生活を
始めることになります。
当然、法外な治療費を払ってでも、
という患者であるが故に皆「ワケアリ」で、
時には急患も舞い込みます。
敵対する組織を襲撃したヒットマンが
腹部を撃たれたということで
呼んできたのです。
たたき起こされて駆けつけた円馬に
対して、「どうせ大した命じゃねえから」と
遠慮を見せるヒットマン。
しかし、円馬は、命だけは助けてやる、
後の落とし前は自分でつけろと
タンカを切り、手術を成功させるのでした。
しかし、ヒットマンは
助かってもヒットマン。
かわりばえのしない一年が始まることを
憂鬱に感じていた彼は、川に流されている
猫を見かけて飛び込んでしまいます。
そして、服役している円馬は、
彼が死亡したという記事を
見てしまうのでした。
脱獄ドクターいのち屋エンマの読んでみた感想・評価
ハイテンポかつハイテンション、そして
爽快感があって良かったです。
こうした医療ものの漫画はどうしても
「絶対に救えない患者」と対面する
関係上、手術での奮闘空しく途中で
亡くなったり、不治の病の前に
立ち尽くしたりといった展開が
つきものですが、本作ではいかなる
病気であってもすぐさま手術で
パっと治るという明快なストーリーで
成り立っていて、読んでいて
ストレスがありませんでした。
一方で、主人公の円馬が闇医者になった
動機やメスを握り続けなければならない
状況などの基本的な部分は
非常に良く考えられており、相当に
荒唐無稽な部分のある展開であるにも
関わらず、破綻なくスッキリまとまっている
あたりに、サービス精神と
確かな力量を見た気がします。
「問題」が明快な形で提示され、
それがすぐに解決していくテンポの良さは
「企業戦士YAMAZAKI」の
頃からのままですし、全体的には
さらにいい感じに仕上がってもいますので、
往年のファンである私としては
実に面白く読むことができました。
脱獄ドクターいのち屋エンマはこんな方におすすめな作品!必見
国民皆保険制度や手厚い看護等々、日本は
世界においても極めて恵まれた医療制度の
ある国として知られています。
ただ、その一方で、本当に満足のいく治療が
行われていないと感じる人や、
難しい怪我や病気に苦しむ人もまた
多いのが現実です。
その厳しさがお金次第でどんな手術でも
請け負ってくれる「ブラック・ジャック」の
ようなヒーローを創作世界に生み出したとも
言えるかも知れませんし、
幾度もメディアミックスやリメイクが
なされている現状は、医療がなかなか
完成しない事実を
物語っているようでもあります。
さて、本作もまた「闇医者」を主人公にした
物語ですが、コールド・スリープ
されている妹の治療費を稼ぐため、
本物の重罪人である円馬が
奮闘するという枠組みになっていますので、
「ブラック・ジャック」よりもむしろ
闇医者をやり続けなければならない動機や
現実の厳しさの説得力は
はっきりとしています。
そして、制限時間内に手術を済ませ、また
刑務所に戻らなければならない関係上、
長々と患者に寄り添う時間は物理的に
ありませんし、精神的にもそうした余裕は
円馬にはありません。
じっくりとしたヒューマン・ドラマ的な
展開には成り得ないわけですが、その点が
かえって説教臭くならずに済むという
効果を生んでいます。
どんなワルの命も助け、また、死んでいく
命を見過ごすことはできない医者という
職業柄、命を粗末にしたりする者に
対しては物申したくなるのが自然ですが、
円馬の場合は制約上、長々と
説教することはできないわけです。
また、妹さんの治療費の関係上断ることが
できない立場でもあり、
よりすぐりもできません。
手術の腕は抜群中の抜群で、通常は
絶対に手術できないような病気でも
あっという間に治したり、絶望的な命を
救ったりもしてくれるので痛快感があり、
さらに円馬自身がやったことによる
因果応報や、それによって生じた
花音たちとのまさしく因縁じみた
関係など、人間ドラマという観点からも
見るべきものが多い良作と言えるでしょう。