タイトル | はたらく漫画家 |
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原作・漫画 | 猿山長七郎 |
出版社 | 集英社 |
漫画家の猿山氏が、様々な仕事を
レポートした短編集。
実体験に基づいているだけに
説得力十分で、バイト探しの際には
求人広告と併せて読んでおきたい
一冊とも言えるでしょう。
世の中楽な仕事はありませんが、意外と
その職業ならではの楽しさや役得が
含まれていることなども
盛り込まれていて、読後感も爽やかです。
はたらく漫画家のあらすじ紹介
漫画家として活動している一方で、
様々な仕事を経験してきた猿山氏。
本作はそうした仕事のレポ漫画が
ぎゅっと詰まっています。
まさに汗と涙の結晶とも言えますが、
就いた仕事ならではの役得があったり、
意外な体験があったりと、
辛いだけではないのもまた確かです。
たださわりを紹介するだけでなく、
より深いレベルまで漫画に
落とし込んでいるだけに、他にはない
魅力を持っているとも言えますが、
描く方は大変です。
編集長からの電話も単なる
原稿描きだけではなく体を使う
バイトの話だったりで、相当な
苦労を伴いながら一編が
作られていくのでした。
はたらく漫画家のネタバレと今後の展開は?
編集長から「いつも大変だろう」と
労いの電話を受けた猿山氏。
たまには息抜きでも、君の好きな
ロックバンドがドームでコンサートを…。
という話を受けて大喜びします。
しかし行ってみるとそれは、
観客ではなく警備員として
仕事に入る、という話でした。
コンサート会場などの警備は、
専門の警備会社が任されることに
なっており、働く側は登録制で
仕事に入れる形になっています。
責任の重い最前列の警備はベテランの
社員がやり、バイトたちはアリーナと
いうような区分けがなされています。
バイトに入った猿山氏の仕事は
観客の案内。
とりわけ遅れて来た方を案内する際には
懐中電灯を使って
(既に会場が暗くなっているから)
エスコートするという形になります。
そして、演奏が始まったら観客の方に
向き直り、本来的な警備業を
スタートさせるわけです。
アリーナ担当警備の場合、特に
録音と撮影には徹底警戒をすることになり、
チラリとでもフラッシュが
焚かれようものなら即座に現場に急行、
カメラを一旦回収してフィルムは
没収するという措置を取ります。
しかし、厳しいやり取りの
瞬間でもあるものの、
警備員側には楽しみがあります。
何故なら客の側に向かう際、
アーティストの方を向けるからです。
とは言え、そうした役得はほんの一瞬で、
音を聞きながらも姿を見ることもできない
「生殺し状態」になってしまうのが、
この仕事の宿命なのでした。
はたらく漫画家の読んでみた感想・評価
いわゆる体験系の漫画は数多いですが、
その多くはパチンコやスロットなどの
ギャンブルや食レポを雑誌に載せるという
形になっています。
専門性が高く拘束時間の
長い漫画家という職業柄必然なのですが、
だからこそ本書を読んだ時は
ビックリしました。
他人の体験談を再構築するのではなく、
実際に働いてフィーリングを確かめるという
過程を常に入れていたのですから、
その労力は並の「取材」の
比ではないとも言えます。
実際に働いて、職場で動くという過程を
入れているだけに、そのディティールは
非常に細かく、また、意外なオチや
失敗談など、実際にやって見た人でもないと
盛り込めない要素が満載されているので、
単なる「読み物」として以上の面白さや
意義を見出すことができました。
そしてそのリアリティは、完全に
ノンフィクションなわけですから、
本書を読んでいた人がその職に
就こうとする際にも大いに役立つでしょう。
短期系のバイトや、経歴不問系の仕事が
多数なのも、実際に業務に就いたが
故のリアル感が伝わってきますね。
創作関係の仕事は憧れの場ですが、
どうしても作品を掲載できる媒体が
限られており、そううまく描ける機会が
得られるというわけではありません。
猿山氏も読切作品が掲載され
デビューとなったものの、すぐに
連載に結びつくわけではなく、
生活を支えるためにアルバイトで
凌ぐという日々を送っていましたが、
バイトに注力すると漫画のネタを
考えるだけの余裕は持てません。
いつまでこの生活を続けるのか、
という苦境の中、「ならば仕事の
経験を漫画のネタにすればいい」と
思いつき作品化していったのが
本書内の作品群ということのようです。
はたらく漫画家はこんな方におすすめな作品!必見
人手不足が叫ばれている昨今ですが、
個人の事情に応じて常に
仕事があるというわけではありません。
何らかの事情で急に仕事が切れてしまい、
とりあえず急場を凌ぐための
求人を探すという方も多いと思いますが、
短期の業務であっても、
どんなことをするのかは
知っておきたいものです。
本作はそうしたニーズに
マッチした一冊と言えます。
色々な仕事を扱ったレポ・マンガは
色々なところで見ることができますが、
こうやって一つの本にまとまることは
少なく、また、一人の著者の
実体験によって描かれることも
まれだからです。
この本で取り上げられているのは、
着ぐるみの中に入るバイトや
新聞勧誘、製本の補助や警備員など、
比較的すぐに仕事に入れる職場ばかりで、
しかも短期で働くこともできそうなもので
占められているため、極端な話、
求人広告を見てから読んでも
知識として役立たせることができます。
本職の漫画家が実体験したという形を
取っているため、職歴も比較的問わない
職場が多いということも見えてきて、
ブランクがあったりといった方でも
役立てることができることが窺えます。
最低賃金など、今とは異なる部分も
あるでしょうが、全体としての
ざっくりとした流れや雰囲気を
掴んでおける「攻略本」としての
お役立ち度は高いですし、
一話あたりも短いので、
状況に応じて読んでおいて
損はない一冊とも言えるでしょう。